carebase(ケアベース)コラム

2025.11.24 教育・人材育成

執筆者:柴田崇晴

介護人材不足への実践的対策─ICT活用で実現する業務効率化と職員定着【専門家監修】

監修者プロフィール

監修者名:柴田崇晴
保有資格:社会福祉士・主任介護支援専門員
経験年数:25年の相談支援業務
専門分野:介護施設運営・職員教育等
経歴概要:福祉大学を卒業後、高齢者福祉の分野で25年従事。高齢者施設の管理者をしながら都道府県・市町村の職能団体役員として活動中

介護人材不足が深刻化する理由

介護人材の不足は、単に採用が難しいという問題だけではありません。離職率の高さや職員一人あたりの業務負担の増加など、現場の環境そのものが人材定着を妨げる要因になっています。
こうした課題に対し、近年はICTを活用して業務を効率化し、ケアの質を確保しながら職員の負担を軽減する取り組みが注目されています。

まずは、なぜこれほどまでに人材確保が難しくなっているのか、その根本的な要因を確認していきましょう。

高齢化の進行と2050年問題

日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進み、団塊の世代が75歳以上となる2025年を迎えました。そして今後人口の4割が高齢者となる「2050年問題」も控えており、支える側の人口減少は一層深刻といえるでしょう。

有効求人倍率の高さ(採用が極めて難しい)

厚生労働省のデータによると、介護関係職種の有効求人倍率は約3.7倍を超えています。つまり、一人の求職者を4つの事業所が取り合いをしている状況といえます。
この数値は全産業平均と比較しても非常に高く、介護現場が人材確保に苦戦していることを如実に示しています。
<参考:第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の将来推計について|厚生労働省

離職理由の傾向(業務負担・人間関係・夜勤)

令和6年の介護労働安定センターの調査結果によると、介護職が離職した理由の上位3つは以下のとおりです。
・「職場の人間関係に問題があったため」(24.7%)
・「他に良い仕事・職場があったため」(18.5%)
・「勤務先の事業理念や運営のあり方に不満があったため」(17.6%)

ちなみに、第1位の「人間関係の問題」について具体的な理由を深堀すると、「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が最も高く(49.1%)、次いで「上司の業務指示が不明確、リーダーシップがなかった」(36.2%)となっています。
<参考:令和6年度介護労働実態調査|介護労働安定センター

なぜICTが人材不足対策になるのか

人手不足であっても介護サービスの質を維持するためには、スタッフが負担なく働ける環境づくりが重要です。ICTを導入することで業務の効率化だけではなく、記録や情報共有の手間を減らす仕組みが実現できれば、結果人材不足対策として大きな効果を発揮します。

属人化している業務の標準化

ベテランと新人では業務スピードや対応力に差があるのは当然です。しかし、その違いがサービスの質のばらつきにつながってはいけません。誰が担当しても同じ水準で動けるようにするには、マニュアルの共有や業務の見える化が不可欠です。基本対応から緊急時まで統一した行動をとれる体制づくりが、質の安定につながります。

記録・申し送りの負担軽減

忙しい業務の合間に、申し送りのためだけに他職種が集まるのは時間も手間もかかります。タブレットなどのIT機器を活用すれば、各スタッフが空いた時間に必要な情報を確認でき、負担を大きく減らせます。また、出勤していなかった職員の「聞いていない」「伝え忘れた」といった問題も、リアルタイムで共有されることで確実に防ぐことができます。

ミス防止が離職予防につながる

業務の中でミスが起きると、上司からの指導に強いストレスを感じたり、同じ失敗を繰り返して自信をなくし、離職につながってしまうケースは少なくありません。さらに、ミスの原因が分析されず共有もされないままでは、同様のトラブルが再発し、職場全体の負担も増えてしまいます。
本来であれば防げたはずの失敗が続けば、やりがいや自信を失い、介護の仕事から離れてしまう人材も出てきます。だからこそ、小さなミスも成長の機会ととらえ、温かくフォローする職場づくりが重要です。

教育コストの削減(新人対応の負担軽減)

新人を育成するため、事業所では講義研修や実地研修をおこなっているところが多いのではないでしょうか。特に新人研修はこれからの基礎となる介護技術や知識の土台を築くことになるため、念入りに研修をする必要があります。教育コストとして発生する準備の時間や先輩スタッフのストレスは、ICT導入によって解消することが可能です。

<ケアベースでできること>

  • 自動転記・テンプレで記録が時短化
    ケアベースでは、日々の介護記録をテンプレート化でき、必要な部分だけを入力するだけで記録が完成します。さらに、バイタルやケア内容などの情報が自動で転記されるため、二重入力の手間がなくなり、記録時間を大幅に削減できます。結果として、現場スタッフの残業削減やケアに充てられる時間の確保につながります。
  • 動画マニュアルで教育を均一化
    ケアベースの動画マニュアル機能を使えば、業務手順を映像で共有でき、新人教育が標準化されます。指導内容がスタッフによってバラつくことがなくなり、経験に依存しない「誰でも同じ品質で学べる」研修が実現します。教育の手戻りや時間ロスも減るため、人材定着にも効果的です。
  • リアルタイム共有で情報の抜け漏れを防止
    ケア内容や記録がリアルタイムに共有されるため、申し送りの漏れや伝達ミスを大幅に防げます。すべてのスタッフが最新情報を同じタイミングで確認できるため、ケア判断の統一、事故防止、緊急時の対応力向上にもつながります。管理者にとっては、現場の状況把握がスムーズになり、確認作業の負担も軽減します。

職員の離職を防ぐ「働きやすい環境」の作り方

スタッフにとっての「働きやすさ」は、人材が定着するうえで欠かせない要素です。無理なく続けられる環境が整えば、職員は安心して長く働けます。その結果、離職が減り、採用にかかる負担も軽くなり、サービスの質向上にもつながります。
この章では働きやすさにつながるポイントを3つ紹介します。

①業務過多の解消(残業削減)

残業の常態化は離職の大きな引き金になります。「いくら頑張っても業務中に仕事が終わらない」「無駄な業務が多すぎる」など、日頃から口にしているスタッフはいませんか。
定期的に事業所全体で見直し、記録や情報共有の簡素化、役割分担を見える化するなど業務量を平準化し、メリハリのある働き方を実現することが重要です。

②OJT教育の負担を軽くする方法

標準化されたマニュアルや動画教材を整備することで、教えるスタッフの負担も軽減できます。また、講師によって教育内容が異なったり、ケア方法が違ったりすることは新人スタッフが混乱するだけでなく、サービスの質にも影響するため注意が必要です。

③チームケアの質を上げるコミュニケーション

チームでケアの質を保つには、現場の情報が正しく共有される仕組みが不可欠です。事業所内での記録の一元化や迅速な情報共有が確立できると、ケアのミスは減少し職員同士の信頼関係も向上するでしょう。誰か一人に業務が集中しないためにも、スタッフ間のコミュニケーションを円滑にし、風通しの良い組織を築くことが重要です。

<ケアベースでできること>

  • 記録負担の削減 → 時間に余裕が生まれる
    入力補助機能やテンプレートを活用することで、日々の記録作業を大幅に効率化します。手書きや重複入力が減り、現場の時間にゆとりを生み出します
  • 申し送りの見える化 → 連携がスムーズに
    リアルタイムで情報を共有できるため、申し送りの抜け漏れを防止できます。必要な情報がすぐに確認でき、職員間の連携がよりスムーズになります。
  • 新人教育の標準化 → ベテランの負担減
    動画マニュアルや統一された手順により、新人教育の質が一定に保てます。ベテラン職員の属人的な負担が軽減され、現場全体の育成スピードが向上します。

ICT導入を成功させるためのポイント

質の良いサービスのためにICTを取り入れる際、もっとも重要なことはICTを導入することではなく、どのように活用するかということです。
事業所のスタッフの中には、「今のやり方を変える」「新しい操作方法を覚える」ということに抵抗を感じる人もいるかもしれません。一方でICTを活用したことにより、業務全体が改善し働きやすい職場を実現した施設もあります。
この章では、成功事例を参考に、導入・活用する上でのポイントを紹介します。

事前の業務整理(棚卸し)

現時点で業務にどのような課題があるか、改善したいところはなにか、ということを明確にしておくことが重要です。つまり、何のためにICTを導入するのかが定まっていないと、効果も得られないということです。

現場の合意形成・巻き込み

ICT導入で重要なことは、スタッフそれぞれが自分事として課題に取り組み、同じ目標に向かって協働することです。そのため、スタッフが主体となり事前にたくさんの声を取り入れながら、職場全体を巻き込むプロジェクトとして取り組みましょう。

導入初期の研修が定着の鍵

導入初期はシステムの活用意図や機器の操作方法など導入に際して「使い方」を学ぶ研修が欠かせません。
同時に忘れてはならないのが、それによって「自分たちの業務をどう変えるのか」ということを検討することです。せっかくICTを導入したにもかかわらず、以前と同じ業務を続けていたり、ICTを利用しないスタッフがいたりするのでは、導入の効果は得られません。タイミングとしては導入初期の段階で、スパッと業務スタイルを切り替えることが定着の鍵といえます。

失敗する施設の特徴

時間や手間をかけたにもかかわらずICT導入に失敗した施設には、次のような傾向がみられます。

・導入だけで、活用・研修が不十分
・上層部の意向が先走りし、現場の意見が反映されなかった
・業務全体が見直されず、デジタル業務が上乗せされただけで、仕事が増えた

<ケアベースでできること>

  • 初期設定の支援が充実している
    導入時の環境設定やデータ移行を専門スタッフがしっかりサポート。現場の負担を最小限にし、スムーズに使い始められる体制が整っています。
  • シンプルで覚えやすい操作性
    日々の記録や確認が直感的に行える、無駄のない画面設計。ITに不慣れな方でもすぐに使いこなせる分かりやすい操作性が特長です。
  • 導入後の定着サポートが手厚い
    使い始めてからも、チャット・電話・オンラインなどで継続的にサポート。運用が定着するまで伴走し、現場の困りごとを素早く解決します。

まとめ

高齢化と少子化が同時に進む「二重構造」の中で、介護人材の不足はすでに深刻な段階にきており、サービスの質をどう維持するかが大きな社会課題となっています。
こうした状況のなかで注目されているのがICTの活用です。記録時間の削減、情報共有の効率化、教育体制の整備など、多くの事業所で働きやすさの向上に手ごたえが生まれています。その積み重ねは、職員の定着につながり、ケアの質を安定して維持する力へと変わっていくでしょう。
ケアベースは「記録・申し送り・マニュアルを一元管理できるICT」として、人材不足対策に直結する取り組みの一つとして有効です。

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