carebase(ケアベース)コラム
2025.11.25 介護ICT導入・業務効率化
執筆者:川﨑翔太
介護記録の法的要件と保管期間を徹底解説─実地指導対応とデジタル保存の注意点【専門家監修】
監修者プロフィール
- 監修者名:川﨑翔太
- 現職:介護支援専門員
- 経験年数:介護業界17年(現場7年・介護支援専門員10年)
- 保有資格
- 介護福祉士
- 介護支援専門員
- 福祉住環境コーディネーター2級
- 福祉用具専門相談員
- 専門分野
現役のケアマネジャーとして在宅高齢者のケアマネジメント業務に従事。3年前より介護・健康ジャンルを中心にWEBライターとして活動開始。これまでに介護施設の選び方・介護ICT・介護職員の働き方など多数の記事の執筆を経験。 - 経歴概要
介護福祉士として医療機関・介護付き有料老人ホームでの介護現場に従事。ケアマネ資格取得後、地域密着型特養のケアマネジャーを経験し、現在は居宅介護支援事業所ケアマネジャーとして在宅で生活する要介護高齢者のケアマネジメントに携わる。
介護記録の重要性と法的リスク
介護記録は、職員間の情報共有や業務の振り返りだけでなく、法令で義務付けられた重要な業務です。
しかし、記録の種類や事業所の形態によって求められる記載内容や保管期間は異なり、誤った運用は実地指導での指摘や運営に関わる大きなリスクにつながります。
今回は介護事業所や施設が押さえておくべき介護記録の法的要件と保管期間、さらにデジタル保存時の注意点を、専門家監修のもとわかりやすく解説します。
介護記録に求められる法的要件とは
介護記録には、介護保険法や基準省令などで定められた必須項目があり、適切な記録ができていないと実地指導で指摘を受けることがあります。まずは、施設が必ず押さえるべき基本要件を整理します。
介護保険法/省令で求められる主な記載事項
介護記録では、省令によって以下の記載事項が求められています。
・利用者の氏名
・サービス内容
・サービス提供日時
・実施者の名前
・サービスの評価や変化
・ケアプランとの整合性
これらは介護保険法や基準省令で明記されており、記録漏れや不正確な記載は実地指導での指摘対象となるため、常に正確で時系列に沿った記録が必要です。
サービス種別(特別養護老人ホーム・デイサービス・訪問介護など)ごとの違い
介護記録は各サービス種別ごとに求められる記録の種類や内容に違いがあります。
例えば、特別養護老人ホーム・デイサービス・訪問介護の場合は以下の通りです。
・特別養護老人ホーム:日々の健康状態・生活状況の記録
・デイサービス:日々の利用状況や入浴・機能訓練の記録
・訪問介護:自宅での生活支援内容
このように求められる記録内容は違うため、各事業所・施設の種別ごとの運営基準に従って介護記録を運用しましょう。
実地指導で実際に指摘されやすいポイント
実地指導では、記録の不備は最も指摘されやすいポイントです。
記録はサービス提供の根拠となるため、正確性と一貫性が求められるからです。
特に以下のポイントは典型的な指摘事項です。
・提供開始・終了時間の未記載
・バイタル・支援経過の記入漏れ
・署名漏れ
また、同じ事象が帳票ごとに異なる表記になっている場合は、記録の整合性が疑われるため注意が必要です。
「異常なし」など抽象的な記載だけでは根拠が不十分と判断されるため、具体的な内容で記載することが、実地指導の対策につながります。
記録の種類別|法定の保管期間一覧
介護記録は「すべて5年」ではなく、記録の種類やルールによって保管期間が異なります。実地指導で最も確認されるポイントのため、一覧で正確に整理しておくことが重要です。
ケアプラン、モニタリング、介護記録、事故報告、苦情記録などの保管期間
介護記録は法令や自治体の条例に応じた保存期間を守ることが重要です。
例えば、ケアプランやモニタリング、日々の介護記録、事故報告書は原則2年間の保存が法令で定められています。
しかし、自治体の条例によっては5年保存を求める場合があり、苦情記録は対応完了から3年とされています。基準に沿って管理することで、実地指導への備えや記録の信頼性が高まります。
“原本保管”が求められる書類
介護記録や各種書類は、後のトラブルを防ぐためにも原本で保管することが重要です。
原本管理が求められる主な書類は、以下の通りです。
・契約書・同意書
・ケアプラン
・アセスメントシート(利用者の状況把握資料)
・モニタリング記録
・サービス提供記録
・日報・介護記録
・医師からの指示書
・事故・苦情報告書
これらは改ざん防止と証拠性確保の観点からも、コピーではなく必ず原本で残すことが推奨されています。
重要書類を原本で管理し、実地指導の際にも安心して対応できる体制を整えましょう。
5年・2年などの区分理由
介護記録の保存期間が「5年」と「2年」に分かれるのは、法令や自治体の基準に沿った適切な管理が求められるためです。
基本的には、日常的な介護記録は2年間の保存が義務付けられています。
一方、給付費請求書や請求根拠となる記録は、5年間の保存が必要です。
さらに自治体によっては、介護報酬の返還時効に合わせて請求関連の記録も5年間保存するよう求める場合があります。
これらの保存期間を理解し、記録を正しく管理することで、実地指導でも安心して対応できます。
紙保存と電子保存で扱いが変わるポイント
電子保存は紙保存と同じ証拠性を確保するために、より厳格な管理体制が必要です。
特にアクセス制御や改ざん防止、バックアップ体制の構築は必須で、これらが整ってはじめて電子記録は法的に有効と認められます。
また、実地指導では紙提出を求められる場合もあるため、必要な書類をすぐ印刷できる体制も欠かせません。このような準備が電子保存の信頼性を高めることにつながります。
実地指導で見られる“記録の不備”とリスク
記録の遅れ・抜け漏れ・根拠のない記載は、実地指導で最も指摘される項目です。特に「データの整合性」や「時系列の明確化」は、紙・デジタルに関わらず必須の基準です。こちらでは、実地指導で見られる記録の不備と不備があった場合のリスクについて解説します。
よくある不備(コピー&ペースト、日付誤り、未署名など)
記録の不備は実地指導で最も指摘されやすいため、早めの対策が必要です。
特にコピー&ペーストの使い回しや日付の誤り、署名の欠落は「記録の真正性」を疑われる典型的なミスです。
これらがあると、サービス提供の事実が確認できず、最悪の場合は返戻や不正請求と判断される恐れもあります。
日々の記録を丁寧に見直し、信頼性を担保できるよう体制を整えましょう。
実地指導でのチェック例
実地指導で最も重要なのは、記録が「計画通りにサービスを提供した証拠」として成り立っているかです。
そのため、ケアプランとの整合性や記録日時の一貫性、モニタリング内容との齟齬がないかが重点的に確認されます。
例えば、提供時間と記録時間が不自然にずれていたり、計画していないサービスが記載されている場合は指摘の対象となります。
日常的に整合性を意識した記録が求められます。
不備がある場合の行政リスク(改善指導・返戻の可能性 など)
記録に不備があると、事業所は大きなリスクを抱えることになります。
まず改善指導の対象となり、是正されなければ介護報酬の返戻や過誤調整につながります。
さらに、虚偽記録や重大な不備が続く場合、指定停止や取り消しといった重い処分が下されることもあります。
記録の正確性を保つことは、事業所の信用と事業継続を守るうえで欠かせないポイントと言えるでしょう。
記録ルールを統一するための内部体制のつくり方
記録の質を安定させるには、施設や事業所内でルールを統一する体制づくりが重要です。
まず、フォーマットや記載方法を統一し、誰が記録しても同じ基準になるよう整えることが効果的です。
そのうえで、定期的な内部点検や、新任・派遣職員を含む継続的な職員教育を行うことが欠かせません。
さらにICTツールを活用すると、記録の質のばらつきが軽減し、効率化にもつながります。
デジタル保存(電子化)する場合の注意点
記録の電子化は便利な一方で、「何でもデジタルで保存できる」というわけではありません。法的要件を満たしつつ、安全に運用するための基本ポイントをまとめます。
電子帳簿保存法との関係
電子化した介護記録を正しく扱うには、「電子帳簿保存法」へ対応していることが欠かせません。
この法律では、入力や訂正の履歴保存、検索性の確保、バックアップ体制の整備が義務付けられているためです。
上記の条件を満たすことで、データの改ざん防止と信頼性を保てます。
結果として、法令遵守と安心できる記録管理の両方が実現します。
改ざん防止・アクセス権限管理の必要性
電子記録の信頼性を守るためには、改ざん防止とアクセス権限の管理も欠かせません。
誰でも自由に編集できる状態では、記録の正確性が保証されないためです。
具体的には、職種や役割ごとに閲覧・編集範囲を制限し、自動で修正履歴が残る仕組みを導入することが重要です。
こうした体制を整えることで、不正リスクを抑えつつ、介護記録としての証拠性を高められます。
バックアップ体制
電子データを安全に運用するためには、確実なバックアップ体制の構築が必要です。
災害やシステム障害が起きると、データが一瞬で失われるリスクがあるため、クラウド保存や外部メディアへの二重保存など、複数の手段によるバックアップが重要です。
こうした多重化により、データ消失を防ぎつつ、事業の継続性と法令遵守の両立が可能になります。
デジタル化による実地指導での確認項目
電子記録システムを職員教育や現場で活用すると、入力例や誤入力チェック機能を通じて実践的に学べます。職員が操作しながら習得できるため、効率的に記録スキルが向上し、統一したルールの浸透も早まります。
特に新人教育や継続的なスキル向上に効果的で、現場の記録精度を高める取り組みとして効果があります。
ケアベースでできること
デジタル記録の検索性・転記不要化
ケアベースでは、紙の記録で発生していた「探す」「書き写す」といった作業を大幅に減らせます。
記録はすべて項目ごとに整理され、必要な情報を数秒で検索可能。
さらに、バイタル入力やご利用者の情報は自動で各帳票に反映されるため、重複入力や転記ミスを防ぎながら、現場の作業時間を確実に削減できます。
改ざんを防ぐためのログ管理
すべての入力・修正履歴は、タイムスタンプ付きで自動記録されます。
誰が、いつ、どの情報を編集したかが明確に残るため、意図しない書き換えや記録の混在を防ぎ、情報の正確性と透明性を確保できます。
紙にはない“追跡できる安心感”が担保されることで、実地指導でも説明しやすくなります。
共有スピード向上による事故防止
ケアベースに入力した記録はリアルタイムでスタッフ全員に共有されます。
申し送りでの伝達漏れを防ぎ、急な状態変化にもすぐに対応できるため、事故やヒヤリ・ハットのリスク低減につながります。
必要な情報が「すぐ届く・すぐ分かる」環境を整えることで、安全なケア体制を支えます。
施設が守るべき「記録ルール」と職員教育のポイント
法的要件を満たすためには、正しい運用が必須です。
個々の職員任せにせず、施設として「統一された記録ルール」を整備し、継続的な教育体制をつくることが実地指導対策につながります。
記録の標準化(文体、時間表記、略語の統一 など)
記録の標準化は、読みやすさと正確性を高めるために欠かせません。
文体や時間表記、略語を統一し、事業所・施設としてルールをマニュアル化することで、新人職員も迷わず記録できます。
このように記録のルールを統一することで、実地指導や監査での確認がしやすくなり、法令遵守の面でも重要な取り組みです。
研修やOJTでの教育ポイント
記録の精度を高めるためには、研修やOJTで基礎から学ぶことも重要です。
特に、記録の目的や書き方、時系列で整理するポイントを具体例とともに示しながら実践すると、新人や派遣職員も理解しやすいです。
こうした継続的な職員教育は、記録に対する意識を高め、結果的に法令遵守や実地指導での適切な対応につながります。
デジタルツールを活用した教育効率化
電子記録システムを教育に活用すると、入力例や誤入力チェック機能を通じて実践的に学べます。
職員が操作しながら習得できるため、教育効率が向上し、統一したルールの浸透も早まります。
特に新人教育や継続的なスキル向上に効果的で、現場の記録の精度を高める取り組みとして有効的です。
管理者が整えるべきチェック体制
管理者は、記録の正確性を保つためにチェック体制を整えることが必要です。
例えば、記録漏れや誤記を早期に発見できる二重チェックや、定期的な内部点検の仕組みを設けることが効果的です。
また、内容の整合性や時系列の確認をルール化することで、職員全体の記録の質も安定します。
このような体制を作ることが、実地指導への対応力向上にもつながるでしょう。
まとめ
介護記録は、利用者の状態把握や職員間の連携だけでなく、法令で求められる重要な証拠にもなります。
適切に記録と保管を行うことで、実地指導対策やトラブル防止につながります。
また、記録の電子化を検討している施設は、まずは現状の運用ルールを見直し、法令に沿ったデジタル運用が可能なツールを選びましょう。
さらに、全職員が統一したルールに従って、介護記録を記入できるよう教育体制やチェック体制を整えましょう。