carebase(ケアベース)コラム

2025.8.12 介護ICT導入・業務効率化

執筆者:柴田崇晴

介護ICT導入で何が変わる?現場と経営の両面から見るメリット

最新の制度動向と支援制度を踏まえた包括的解説

監修者プロフィール

  • 監修者名:柴田崇晴
  • 保有資格:社会福祉士・主任介護支援専門員
  • 経験年数:25年の相談支援業務
  • 専門分野:介護施設運営・職員教育等
  • 経歴概要
    福祉大学を卒業後、高齢者福祉の分野で25年従事。高齢者施設の管理者をしながら都道府県・市町村の職能団体役員として活動中

介護現場が直面する深刻な課題

2025年現在、日本の介護業界は人手不足の深刻化、業務負荷の増大、記録業務の煩雑化など、多くの構造的課題に直面しています。介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」によれば、介護職員の離職率は低下傾向にあるものの、人手不足や業務負担の軽減は引き続き重要課題であり、記録・情報共有の効率化も改善ニーズが高いことがうかがえます。

こうした課題を解決する切り札として注目されているのが「介護ICT」の導入です。これは単なるデジタル化を超えて、現場の業務効率化から経営の見える化まで、介護事業所の運営全体を変革する可能性を秘めています。

本記事では、2025年8月時点での最新の制度動向と国の支援策を踏まえながら、介護ICT導入がもたらす具体的なメリットを、現場と経営の両面から包括的に解説します。

介護ICT導入の現状と制度的背景

国が推進するICT化の流れ

国が主導のもと一部の自治体では、「介護現場革新会議」を通じて具体的な支援策を展開しています。2024年度の介護報酬改定でも、ICT活用による業務効率化を評価する加算が新設され、制度面でもICT導入を後押しする環境が整っています。

主な国の支援制度(2025年度)

  • 介護テクノロジー導入支援事業:最大250万円を上限に補助
  • 生産性向上推進体制加算: 月額最大100単位の介護報酬加算
  • 介護人材確保・職場環境改善等事業: 研修・コンサルティング費用の支援など

業界全体のICT導入率と課題

一方で、実際のICT導入率は地域や事業所規模によって大きな格差が存在します。
大規模施設では導入が進む一方、小規模事業所では「コストの負担」「操作の複雑さ」「効果への懸念」などの理由で導入が遅れているのが現状です。

現場職員が実感するICT導入の具体的メリット

記録業務の大幅な時短

ICTシステム導入により、従来の手書きやExcelでおこなっていた記録にかかる業務時間を短縮することが期待できます。テンプレート機能や1ボタン入力により、次のような定型的な記録作業が劇的に効率化されます。

  • バイタルサインの自動転記
  • 複数利用者への一括登録
  • 関連記録への自動反映

記録漏れ・ミスの防止

未記録項目の可視化や期限アラート機能により、記録漏れを削減できます。情報の見落としや転記ミスによる事故リスクを減らすことはサービスの質向上につながるといっても過言ではありません。
次のような機能があれば、実現可能です。

  • 未記録項目のハイライト表示
  • 更新期限の自動アラート
  • ダブルチェック機能

情報共有の円滑化

リアルタイムでの情報共有により、申し送りの質が向上し、コミュニケーションエラーを削減できます。多職種連携も格段にスムーズになります。

  • 即座の情報更新・共有
  • 多職種間の連携強化
  • 引き継ぎの標準化

職員教育の効率化

動画マニュアルや研修管理機能により、新人教育期間の短縮ができます。標準化された教育により、サービスの質の向上と職員の早期戦力化を実現します。

  • 動画による視覚的な手順説明
  • 進捗管理とトラッキング
  • 標準化されたカリキュラム

事例紹介:記録と教育を一体化したシステムの効果

最新の介護ICTシステムでは、記録機能と動画マニュアル機能を一体化することで、より大きな効果を生み出しています。
例えば、介護記録・申し送り・教育を統合したクラウド型システム「ケアベース」では、以下のような特徴的な機能により現場の負担軽減を実現しています。

  • 記録と連携した動画マニュアル
    記録入力時に関連する手順動画や注意点が自動表示
  • 自動転記機能
    バイタルサイン → ケース記録 → 申し送り → 個別ポイントへの自動連携
  • 未記録の可視化
    入力漏れを一目で確認でき、重複入力も防止
  • 直感的なUI
    紙の記録表に近いデザインで、ICTに不慣れな職員も安心

経営層が注目すべきICT導入の経営効果

人件費削減と生産性向上

ICT導入による業務効率化は、直接的な人件費削減効果をもたらします。記録業務の時短により、職員一人当たりの業務時間削減が可能となり、その分をより質の高いケアに充てることができます。具体的には次のような効果が期待できます。

  • 記録時間短縮により利用者とかかわる時間が増加
  • 離職率が低下し人手不足の解消
  • コスト削減 による健全な事業運営

経営の見える化と意思決定の高度化

ICTシステムが蓄積するデータは、経営判断の重要な根拠となります。利用者の状態変化、職員の業務負荷、コスト構造など、これまで感覚的に判断していた要素を数値化し、より科学的な経営が可能になります。

コンプライアンス強化とリスク管理

電子化された記録は、監査対応や事故発生時の原因究明において重要な役割を果たします。記録の改ざん防止、アクセスログの管理、バックアップの自動化など、アナログ管理では実現困難なセキュリティレベルを確保できます。

職員定着率の向上と採用力強化

ICT化により働きやすい環境を整備することで、職員の満足度向上と定着率改善が期待できます。また、「ICT活用に積極的な事業所」としてのブランディング効果により、求人への応募増加も見込まれます。
これはまさに、利用者・職員・事業所にとって「Win:Win:Win」といえるでしょう。

ICT導入を成功させるための重要ポイント

段階的な導入とスタッフ教育

一度にすべての機能を導入するのではなく、まずは記録機能からはじめて、段階的に機能を拡張していくアプローチをおすすめします。また、ICTに不慣れな職員向けの丁寧な教育体制の構築も同時におこないましょう。

現場のニーズに合ったシステム選択

施設の規模、サービス種別、既存の業務フローなどを総合的に考慮したシステム選択が重要です。特に、現場職員が直感的に操作できるUIデザインや、既存業務からの移行しやすさを重視しましょう。

システム選択のチェックポイントを紹介します。

  • 現場スタッフが直感的に使えるシンプルなUI
  • 導入時のサポート体制(研修・個別指導)
  • 初期費用と運用コストの明確さ
  • 機能の統合性(記録・申し送り・教育の連携)
  • セキュリティ対策の充実度

継続的な改善と活用拡大

ICT導入は「ゴール」ではなく「スタート」です。
導入後も継続的にデータを分析し、業務フローの改善や新機能の活用を進めることで、真の効果を発揮します。

まとめ:介護ICTが拓く未来

2025年現在、介護ICT導入は「選択肢」から「必須事項」へと変化しています。現場の負担軽減、経営の効率化、そして何より利用者への質の高いケア提供を実現する重要なツールとして、その価値は日々高まっています。

特に注目すべきは、単なる記録のデジタル化を超えて、「記録を人材育成のための資産に変える」という新しいアプローチです。記録業務と教育・研修を一体化することで、職員の成長促進と定着率向上を同時に実現する事例が増加しています。

今後の展望と技術トレンド

  • AI活用:記録データからのケアプラン自動提案
  • IoT連携:センサーとの連携による自動記録
  • 予測分析:利用者の状態変化予測とリスク管理
  • 遠隔支援:専門職による遠隔指導・相談

介護ICT導入は、現場と経営の両方にとって大きなメリットをもたらします。適切なシステム選択と段階的な導入により、その効果を最大化していきましょう。

参考資料・出典

本記事は2025年8月時点の情報に基づいて作成されています。最新の制度情報や支援策については、各自治体・関係機関にご確認ください。

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