carebase(ケアベース)コラム
2026.8.21
介護の接遇事例集|場面別のNG例とクレーム発生時の対応
介護の接遇は、食事・入浴・排泄・声かけの場面ごとにNGな対応と良い対応を対にして整理すると現場で使えます。厚生労働省の令和6年度調査では、施設職員による虐待の発生要因の1位が知識・意識の不足で75.9%でした(厚生労働省、2026年8月時点)。場面別の事例と、クレーム発生時の対応、定着のさせ方をまとめます。
場面ごとの声かけや介助の手順を職員全員でそろえたい方は
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介護の接遇とは?事例を読む前に押さえたい3つの前提
介護の接遇は個人の心がけの問題ではなく、運営基準で事業者に求められている業務上の要件です。指定介護老人福祉施設の基準は、サービス提供にあたって「懇切丁寧を旨とし、入所者又はその家族に対し、処遇上必要な事項について、理解しやすいように説明を行わなければならない」と定めています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。
押さえておきたい前提は3つあります。1つ目は、接遇が説明・苦情対応・虐待防止という3つの基準と地続きだという点です。2つ目は、言動の乱れが放置されると制度上の帰結を伴う点です。令和6年度の調査では、施設職員による虐待の判断件数が1,220件で4年連続の過去最多となり、種別では心理的虐待が27.7%を占めました(厚生労働省、2026年8月時点)。3つ目は、接遇の質が個人差ではなく共有された基準の有無で決まる点です。
接遇に関わる基準と制度の対応
接遇を「気持ちの問題」として扱うより、基準・記録と結びつけて運用するほうが、苦情対応や運営指導との整合が取れます。どの要素がどの基準に対応するかを並べると、点検すべき箇所が具体的になります。
| 接遇の要素 | 根拠となる基準・制度 | 事業者に求められること |
|---|---|---|
| 説明・声かけ | 運営基準 第11条第3項 | 懇切丁寧を旨とし、理解しやすいように説明する |
| 行動を制限する言動 | 運営基準 第11条第4項〜第6項 | 原則禁止。委員会を3月に1回以上開催、指針の整備、研修の定期実施 |
| 苦情への対応 | 運営基準 第33条 | 窓口の設置、内容の記録、指導・助言に従った改善と報告 |
| 虐待の防止 | 運営基準 第35条の2、令和6年度介護報酬改定 | 措置が講じられていない場合は基本報酬を減算 |
出所: e-Gov法令検索「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」および厚生労働省 令和6年度調査結果を基に作成(2026年8月時点)
接遇マナーの5原則(挨拶・身だしなみ・表情・態度・言葉遣い)は、以下で扱う事例のいずれにも共通する土台にあたります。虐待防止の研修設計については介護の虐待防止研修とは|義務化の内容・進め方と記録管理で詳しく整理しています。
場面別に見る介護の接遇事例|NG対応と良い対応
介護の接遇事例は、介助の場面ごとにNGな対応と良い対応を1対1で並べると指導に使えます。NGの基準は自施設で一から洗い出す必要はなく、自治体が配布する「虐待の芽チェックリスト」に15項目の具体形で公表されています(新宿区、2026年8月時点)。以下では、この項目を介助の場面軸に並べ替えて示します。
| 場面 | NGになりやすい対応 | 良い対応 |
|---|---|---|
| 食事 | 食べない人の口へ無理に運ぶ | 食べたくない理由を確かめ、形態や時間を変える |
| 入浴 | 声をかけずに衣服に手をかける | 何をするかを伝え、同意を得てから触れる |
| 排泄 | 食堂など人前で排泄の話題を出す | 個別に声をかけ、記録は職員間の共有に留める |
| 声かけ・呼び方 | あだ名・呼び捨て、命令口調 | 姓に敬称を付け、依頼の形で伝える |
出所: 新宿区掲載「虐待の芽チェックリスト(訪問サービス版)」(公益財団法人東京都福祉保健財団 高齢者権利擁護支援センター作成)を介助場面別に再編(2026年8月時点)。対応するチェック項目は、食事・入浴=「食事や入浴介助の無理強い」(項目9)、入浴=「声掛けなしの介助」(項目4)、排泄=「プライバシーへの配慮不足」(項目5)、声かけ・呼び方=「子供扱い・あだ名や呼び捨て・命令口調」(項目1〜3)。
食事の場面
食事は本人の楽しみに直結します。厚生労働省の手引きは、食べることを「楽しみや生きがい」であり「ケアの基本」と位置づけています(厚生労働省、2026年8月時点)。良い対応は、食が進まないときにまず理由を確かめることです。義歯が合わない、姿勢が合わない、量が多い、といった理由が見つかれば、形態や時間を調整できます。
一方でNGになりやすいのが、時間内に終わらせるために口へ運び続ける対応です。公表されているチェックリストでも「食事や入浴介助の無理強い」が不適切なケアとして挙がっています。食事の所要時間を職員ごとの裁量に任せず、食べにくさの理由を記録して次の食事に引き継ぐ運用にしておくと、無理強いが起きにくくなります。
入浴の場面
入浴は身体に触れる時間が長く、声かけの有無が体感を大きく変えます。良い対応は、脱衣・洗身・移動のそれぞれで「これから何をするか」を先に伝え、同意を確かめてから触れることです。手引きは、皮膚が不潔な状態がかゆみの原因となり、大声や夜間の不穏につながることにも触れています(厚生労働省、2026年8月時点)。
NGになりやすいのは、流れ作業のなかで声をかけずに衣服へ手をかける対応です。チェックリストでは「利用者への声掛けなしに介助していませんか」が項目として設けられています。入浴は人数と時間の制約が強く、動作の速さが優先されると声かけから省かれます。入浴介助の手順書に「声かけ」を独立した工程として書き込んでおくと、省略が起きにくくなります。
排泄の場面
排泄は本人の尊厳と最も直結する場面です。良い対応は、誘導の声かけを個別に行い、交換の必要が生じたら間を置かずに対応することです。手引きは、オムツを使用している人について「随時交換が重要」とし、排泄物が付いたままの状態が不快さから「オムツいじり」等の行為につながると説明しています(厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)、2026年8月時点)。
NGになりやすいのは、食堂や廊下など人がいる場所で排泄について話す対応です。チェックリストは「プライバシーに配慮せず、職員や関係機関同士で話題にしたり個人情報を取り扱ったりしていませんか」を挙げています。申し送りの場を決め、口頭での共有を記録に置き換えることで、場所を選ばない会話を減らせます。記載項目や文例は排泄記録の書き方|必須項目・便の性状・すぐ使える文例集にまとめています。
声かけ・呼び方の場面
呼び方と語調は、本人の状態に直接影響します。厚生労働省の手引きは、認知症の行動・心理症状の原因として想定される事項の1つ目に「職員の行為や言葉かけが不適当か、またはその意味が理解できない場合」を挙げ、症状を「強い言葉や物理的な行動制限によって無理に抑え込むのは、多くの場合逆効果」と述べています(厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)、2026年8月時点)。
良い対応は、姓に敬称を付けて呼び、依頼の形で伝えることです。「立ってください」ではなく「立つのを手伝ってもよろしいですか」と尋ねる形にすると、本人が断る余地が残ります。NGになりやすいのは、親しみのつもりの「○○ちゃん」という呼び方や、「ダメ!」といった命令口調で、いずれもチェックリストに項目として明記されています。呼び方と語調は個人の性格ではなく、施設として決めて共有する対象です。
「ちょっと待って」は身体拘束にあたる?言葉で行動を制限した事例と言い換え
「ちょっと待って」を繰り返して長時間待たせる対応は、言葉で行動を制限する行為にあたります。厚生労働省の手引きは、身体拘束を「本人の行動の自由を制限すること」と定義したうえで、実践事例として「組織として、スピーチロックも身体拘束とし、『ちょっと待ってね』等の言葉の言い換え等に取り組んでいる」施設の取り組みを紹介しています(厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)、2026年8月時点)。
同じ手引きは、身体拘束にあたる具体的な行為として示されてきた11項目について「あくまでも例示であり、他にも身体拘束に該当する行為があることに注意が必要」としています。器具を使わない言葉だけの制限であっても、行動の自由を奪っていれば同じ枠組みで見る、という整理です。自治体のチェックリストにも「『ちょっと待って』を乱用し、長時間待たせていませんか」が項目として入っています(新宿区掲載「虐待の芽チェックリスト(訪問サービス版)」、2026年8月時点)。
言い換えの2つの考え方
言い換えの軸は2つです。1つは、待たせる理由と見込み時間を添える形。もう1つは、待つ間にできる代替行動を示す形です。どちらも本人から選択肢を奪わないように言葉を組み替える発想にあたります。
| 行動を止める言い方 | 言い換えの形 |
|---|---|
| ちょっと待って | あと3分で戻ります。ここで座って待っていただけますか |
| 立たないで | 立つときは呼んでください。すぐに手を貸します |
| 危ないからダメ | この段差が危ないので、こちらから回りましょう |
出所: 厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)の考え方に基づく言い換え例(2026年8月時点)
言い換えを個人の裁量に委ねると、忙しい時間帯ほど元の言い方に戻ります。言い換えの一覧を文書にし、研修と動画マニュアルで全職員が同じ内容を見られる状態にしておくと、時間帯や担当者による差が小さくなります。
言葉の言い換えを研修と動画マニュアルで共有したい方は
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クレームにつながった接遇の事例と、発生時の対応手順
接遇へのクレームは、受付・記録・改善・報告という決まった流れで扱います。運営基準第33条は、苦情に迅速かつ適切に対応するための窓口設置、受け付けた苦情の内容等の記録、市町村の調査への協力と指導・助言に従った改善、求めがあった場合の改善内容の報告を事業者の義務として定めています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。
クレームになりやすい接遇の類型
公表されているチェックリストの項目のうち、家族からの申し出につながりやすいのは次の3つです。1つ目は「呼びかけを無視したり、意見や訴えに否定的な態度をとったりする」対応で、面会時に家族が直接目にしやすい行為です。2つ目は「プライバシーに配慮せず、職員同士で話題にする」対応で、他の利用者や家族の耳に入ります。3つ目は「意思・意向を確認しないまま私物を捨てたり片付けたりする」対応で、私物の紛失として表面化します(新宿区掲載「虐待の芽チェックリスト(訪問サービス版)」、2026年8月時点)。
いずれも悪意から起きるとは限らず、業務量と手順の不足から生じます。類型として先に共有しておけば、起きてから個人を責める形になりにくくなります。
発生時の対応手順
手順は5段階に分けられます。
- 窓口で申し出を受け付ける
- 事実確認を行い、日時・内容・関係者を記録する
- 原因を職員間で共有する
- 手順書や配置を見直して改善する
- 市町村から求めがあれば改善内容を報告する
運営基準が求めているのはこの一連の記録と改善であり、現場の判断だけで完結させる設計にはなっていません。事実確認の段階では、ヒヤリハットや事故の報告様式と同じ枠組みを使うと、記録の粒度がそろいます。書き方は介護のヒヤリハット事例集と報告書の書き方で扱っています。個別の事案が虐待にあたるかどうかの判断は、市町村の担当窓口へ相談してください。クレームは個人の失敗としてではなく、手順の不足として記録に残すと再発防止につながります。
接遇の事例を全職員に定着させる3つの方法
接遇の定着には、言い換え表・事例検討・確認記録の3つがそろっている状態が必要です。令和6年度の調査では、施設職員による虐待の発生要因の1位が「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」で75.9%、2位が「職員の倫理観・理念の欠如」で64.3%でした(厚生労働省 令和6年度調査結果、2026年8月時点)。個人の資質より、知識が共有されているかどうかが上位を占めています。
1. 場面別の言い換え表を文書にする
口頭で伝えた言い換えは、伝えた相手の記憶の範囲でしか残りません。食事・入浴・排泄・声かけの4場面について、NGな言い方と言い換えの形を1枚の表にし、新人配属時に配布する運用にすると、指導者による説明の差が縮まります。表は完成品として固定せず、現場から出た言い方を追記していく形にしておくと使われ続けます。
2. 公表チェックリストを題材に事例検討を行う
事例検討会の題材は、自作しなくても公表資料から用意できます。虐待の芽チェックリストは15項目あり、1回の会議で1つか2つを取り上げれば年間の題材になります。同チェックリストには「無記名で定期的に実施・回収(年数回)し、集計・分析による課題把握を行い運営改善に取り組む」という運用の注記も添えられています(新宿区掲載「虐待の芽チェックリスト(訪問サービス版)」、2026年8月時点)。
3. 研修後の確認を記録に残す
厚生労働省の手引きが紹介する実践事例では、体験形式の研修で介護する側とされる側に分かれ、声のかけ方や介護の方法を学んだうえで、「入社1カ月後および定期的にチェックシートに基づいて確認」する運用が示されています(厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)、2026年8月時点)。研修の実施記録だけでは、内容が現場に残ったかどうかを確かめられません。法定研修の記録の残し方は介護施設の法定研修とは?種類・回数・年間計画と記録の残し方で整理しています。
一般には「接遇研修を定期的に行う」ことが対策として挙げられます。ただし比較軸で見ると、研修を実施しただけの状態と、研修後の確認まで記録に残る状態とでは、定着したかどうかを検証できる度合いが異なります。運営基準第11条第6項も、身体的拘束等の適正化について委員会の開催・指針の整備・研修の定期実施という3点を組み合わせて求めています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。自施設の接遇対策は、研修の実施回数ではなく、その後の確認記録が残る仕組みになっているかで点検してください。
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接遇の言い換え表や介助手順を紙と口頭だけで運用すると、内容が指導者ごとに変わり、新人や外国人職員には同じ説明を繰り返すことになります。CareBase(ケアベース)は、介護記録・申し送り・動画マニュアルによる教育をクラウド上の一つの環境にまとめ、多言語での表示にも対応しています(CareBase(ケアベース))。
同じ動画と手順書を全職員が同じ形で見られるため、場面ごとの声かけや介助の流れを文章だけでなく映像で共有できます。研修の受講状況や記録も同じ環境に残るため、確認記録を別のファイルで管理する手間を減らせます。機能の範囲や導入の要件はサービス資料に記載されています。
よくある質問
Q1. 介護の接遇の事例検討会は、どんな題材で進めればよいですか?
自治体が公表している虐待の芽チェックリストの項目をそのまま題材にできます。全15項目のうち1回の会議で1つか2つを取り上げ、自施設で当てはまる場面と代わりの対応を出し合う形にすると、題材を毎回考えずに済みます(新宿区掲載「虐待の芽チェックリスト(訪問サービス版)」、2026年8月時点)。
Q2. 接遇のロールプレイングは、どの場面を題材にすればよいですか?
厚生労働省の手引きが紹介する実践事例では、介護する側とされる側に分かれ、声のかけ方や笑顔、介護の方法を学ぶ体験形式の研修が挙げられています(厚生労働省「介護施設・事業所等で働く方々への身体拘束廃止・防止の手引き」(令和7年3月)、2026年8月時点)。声かけ・入浴・排泄など、身体に触れる場面から始めると、される側の体感が言葉になりやすくなります。
Q3. 職員の接遇の態度が悪いと家族から言われたら、まず何をすればよいですか?
運営基準第33条に沿って、窓口で申し出を受け付け、日時・内容・関係者を記録するところから始めます。そのうえで事実確認と原因の共有を行い、手順の見直しにつなげます。市町村から求めがあれば改善内容を報告します(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。
Q4. 接遇の研修は法令上の義務ですか?
「接遇研修」という名称で義務づけられた規定はありません。ただし運営基準第11条第6項は、身体的拘束等の適正化のための研修を従業者へ定期的に実施することを求めており、言葉による行動の制限もこの範囲に含めて扱う施設があります(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。自施設のサービス種別ごとの適用は、指定権者である自治体の窓口へ確認してください。
まとめ
場面別のNGと良い対応が1枚の表になり、言い換えの形が文書で共有され、研修後の確認が記録として残る状態がそろうと、新人が入った週でも、夜勤帯でも、家族の面会が重なった日でも、職員によって声のかけ方が変わりません。家族から言い方を指摘される前に、自施設で気づいて直せる状態になります。まずは食事・入浴・排泄・声かけの4場面について、自施設のNGと良い対応を書き出すところから始めてください。
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