carebase(ケアベース)コラム

2026.7.8

【2026年版】介護施設の誤薬対策|原因・防止策・発生時の対応

スクラブ姿の医療・介護スタッフ(服薬・誤薬対策のイメージ)

誤薬は介護現場で起こりやすい事故ですが、厚生労働省は誤薬を「対策を取り得る事故」に位置づけています(厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」令和7年11月、2026年6月時点)。配薬準備と配薬時の二段階で確認を設計し、ながら業務を減らせば、誤薬は仕組みで減らせます。この記事では、誤薬が起こる原因と防止策を中心に整理します。

介護施設の誤薬とは何か|「防げる事故」と「防ぎにくい事故」の整理

誤薬・与薬漏れを「対策を取り得る事故」と「防ぎにくい事故」に二分し、取り違え・時間の誤り・与薬漏れの3パターンを整理した図解

誤薬は「対策を取り得る事故」側に分類され、取り違え・時間の誤り・与薬漏れが代表パターン(出所: 厚生労働省ガイドライン令和7年11月を基に作成)

誤薬とは、薬の種類・量・対象者・時間などを誤って与える、または服用させてしまうことで、その多くは思い込みや確認不足というヒューマンエラーで起こる防止可能な事故です。

介護施設で起きる事故には、転倒・転落や誤嚥・窒息などさまざまな種類があり、誤薬・与薬漏れもそのひとつとして厚生労働省のガイドラインに位置づけられています(厚生労働省「介護保険施設等における事故予防及び事故発生時の対応に関するガイドライン」令和7年11月、2026年6月時点)。

このガイドラインは事故を二つに仕分けています。ひとつは「対策を取り得る事故」で、職員のケア行為に伴う事故が中心です。もうひとつは「防ぐことが難しい事故」で、利用者の活動や加齢に伴う機能低下による事故が含まれます。同ガイドラインは、誤薬や与薬漏れを「思い込み等のヒューマンエラーによって起こりやすい事故」と説明しており、これは前者の「対策を取り得る事故」に分類されます。

この区別が誤薬対策の出発点になります。データ上は、誤薬は「いつ起きてもおかしくない防ぎようのない事故」ではなく、確認の仕組みや業務環境を整えることで発生を抑えられる事故です。だからこそ、誤薬を漠然と恐れるのではなく、自施設のどの場面で起こりやすいかを見極め、対策を取り得る部分から手をつけるのが現実的な進め方です。

なお、同ガイドラインは、契約時に本人や家族へ「防ぐことが難しい事故」もあることを十分に説明し、理解を求めることの重要性にも触れています。すべての事故を一律にゼロにすると約束するのではなく、防げる事故を確実に防ぐ姿勢が、施設の信頼にもつながります。これは、誤薬を「現場の気の緩み」と捉えて精神論で乗り切ろうとする発想からの転換でもあります。気をつける意識だけに頼ると、忙しい場面では確認が抜け落ちやすくなります。仕組みで防ぐという視点に立つことが、対策の前提になります。

介護現場で起こる誤薬の主なパターン

誤薬と一口に言っても、現場で起こる形はいくつかに分かれます。代表的なのは、別の利用者の薬を渡してしまう「薬・対象者の取り違え」、本来とは違うタイミングで飲ませてしまう「時間・回数の誤り」、配ったはずの薬を飲み忘れる・飲み残す「飲み忘れ・与薬漏れ」の三つです。さらに、医師が中止した薬を続けて渡してしまう、用量の異なる薬を取り違えるといった形もあります。

これらは一見ばらばらに見えますが、共通するのは「確認のどこかが抜けたときに起きる」という点です。対象者の確認が抜ければ取り違えに、時間の確認が抜ければタイミングの誤りに、飲み込みの確認が抜ければ与薬漏れにつながります。どのパターンも、確認をどの工程に組み込むかという設計の問題に行き着きます。自施設で起きたヒヤリハットがどのパターンに当てはまるかを記録し、どの確認が抜けやすいかを把握しておくと、対策の優先順位づけに役立ちます。

誤薬と「与薬漏れ」「ヒヤリハット」の関係

誤薬とよく一緒に語られるのが「与薬漏れ」と「ヒヤリハット」です。与薬漏れは、薬を渡したつもりでも利用者が飲み込めずに残してしまうなど、必要な薬が体内に入らない状態を指します。同ガイドラインは、適切に配薬できても服薬されていなければ与薬漏れになるため、飲み込んだかどうかまで確認することをマニュアルに定めて徹底するよう求めています。配るところまでで安心せず、飲み込みまでを一連の業務として捉える視点が必要です。

ヒヤリハットは、事故には至らなかったものの「危なかった」場面のことです。医療安全の分野では、重大事故として表面化するのは氷山の一角であり、その下に軽微な事故やヒヤリハットが数多く隠れているとされています(日本看護協会「薬剤誤投与への対策」、2026年6月時点)。データ上は、表に出た重大事故だけを見ていても、その下に潜む多数の危険な場面は見えてきません。誤薬を減らすには、事故に至らなかった「危なかった」段階の情報を拾い上げ、原因をつぶしていく取り組みが起点になります。だから、ヒヤリハットを叱責の材料にせず、報告しやすい雰囲気をつくることが、結果的に重大な誤薬を防ぐ近道になります。拾い上げたヒヤリハットを再発防止につなげる書き方は、介護のヒヤリハット事例集と報告書の書き方(場面別の記入例)で、様式や場面ごとの記入例とあわせて整理しています。

介護施設で誤薬が起こる主な原因

確認不足・ながら業務・申し送りのずれ・人手不足/夜勤帯・保管識別の5つを介護施設で誤薬が起こる主な原因として整理した図解

誤薬の原因は個人の不注意だけでなく業務環境にも広がる5要因として整理(出所: 厚生労働省ガイドライン令和7年11月を基に作成)

誤薬の主な原因は、思い込みや確認不足というヒューマンエラーに加え、ながら業務や情報共有のずれといった業務環境の問題で、配薬準備と配薬時の両方の工程で発生します。

厚生労働省のガイドラインは、誤薬・与薬漏れが起こる要因として、確認不足、服薬業務とその他の対応が重なって慌ただしい状況で行われていること、服薬業務に関するシステムがチーム内で統一されていないことなどを挙げています。原因を個人の不注意だけに帰すのではなく、業務の流れや環境の側に目を向けることが、再発を防ぐ第一歩になります。職員を責めるだけでは、同じ環境のまま別の職員が同じミスを繰り返すからです。

医療安全の分野でも、ヒヤリハット事例のなかで最も報告が多いのは薬剤が関連する事例だと示されています(日本看護協会「薬剤誤投与への対策」、2026年6月時点)。これは医療機関の看護職を対象としたデータですが、薬を扱う業務がもともとエラーの起きやすい工程であるという構造は、介護現場にも共通します。だから、薬を扱う場面では「人は間違えるもの」という前提に立ち、間違いが起きにくい仕組みを用意しておく必要があります。

以下では、誤薬につながりやすい代表的な要因を整理します。自施設のヒヤリハットがどの要因に当てはまるかを照らし合わせると、優先して手をつけるべき場所が見えてきます。

確認不足・思い込み(ヒューマンエラー)

最も基本的な要因が、確認不足と思い込みです。配薬袋に印字された名前と利用者の顔が一致しているかを確認しないまま渡してしまう、「いつもの人だから」と思い込んで本人確認を省略してしまう、といった場面でミスが起こります。慣れた業務ほど確認が形だけになりやすく、ベテランでも油断できません。むしろ経験を積むほど「これくらいは大丈夫」という思い込みが入りやすく、確認の手順を意識的に守る工夫が要ります。

ながら業務・業務中断

食事の下膳や他の利用者対応などを並行しながら配薬を行う「ながら業務」も、大きな要因です。厚生労働省のガイドラインが紹介する特別養護老人ホーム(90床)の事例では、食事の下膳と配薬を同じ職員が並行して行ったことで配薬ミスが起き、誤薬が発生しました。配薬済みの薬から目を離していたことや、服薬業務の担当者が決まっていなかったことも背景にありました。注意力を分散させる業務の組み方そのものが、エラーの温床になります。一つの作業に集中できない状況をつくらないことが、確認の質を保つ前提になります。

情報共有・申し送りのずれ

医師の処方変更や服薬中止の指示が、記録や服薬リストに反映されていない、あるいは職員間で正しく共有されていないことも誤薬を招きます。紙の記録と口頭の申し送りだけに頼っている場合、記入漏れや伝達漏れが起こりやすくなります。夜勤と日勤が入れ替わるタイミングで引き継ぎが不十分だと、担当者があいまいになり、確認が抜け落ちます。指示が変わったその日のうちに、関わる全員が同じ情報を見られる状態になっているかどうかで、誤薬の起こりやすさが変わってきます。申し送りで情報が行き違う原因とその防ぎ方は、介護の申し送りのコツと進め方(ミスを防ぐ5つの実践ステップ)でも、進め方のコツとあわせて具体的に解説しています。

人手不足・夜勤帯への偏り

人員が手薄になる時間帯や、職員が少ない夜勤帯・交代帯は、確認に十分な時間や人手をかけにくく、ミスが偏りやすい場面です。新人が一人で対応する状況や、急な欠員で普段と違う流れになる状況も、リスクを高めます。人を増やすのが難しい現実を踏まえると、人手が薄い時間帯でも確認が成立する仕組みをあらかじめ用意しておくことが現実的な備えになります。厚生労働省のガイドラインも、確認の人数を増やすことだけでなく、服薬業務に専念できる職員体制や業務手順書の整備といった環境面の対策を並べて挙げています。二人での確認が常に取れない施設でも、声に出す確認や担当時間の固定など、人手をかけずに確認の質を保つ工夫から着手できます。

保管・識別のしにくさ

薬の保管方法や見た目の似ている薬の取り違えも要因です。名前や効能が似ている薬が同じ場所に置かれていると、取り違えが起こりやすくなります。厚生労働省のガイドラインでも、薬局と連携して分包紙の印字を工夫したり用法ごとに色線を付したりする識別性の向上が事例として挙げられています。誰が見ても区別しやすい保管・表示の工夫が、確認作業そのものを楽にし、エラーの予防につながります。

誤薬を防ぐ対策|配薬準備と配薬時で分けて考える

配薬準備→配薬時→服薬確認の3工程で多段階確認を設計する誤薬防止フロー図。各工程の主な対策を示す

誤薬対策は配薬準備・配薬時・服薬確認の工程別に確認を設計する(出所: 厚生労働省ガイドライン令和7年11月を基に作成)

誤薬防止は、配薬準備(薬を用意する段階)と配薬時(手渡し・服薬の段階)に分けて対策を考え、それぞれの工程で多段階の確認を行うのが基本です。

厚生労働省のガイドラインは、誤薬・与薬漏れを防ぐために「薬を配薬トレーに用意する段階(配薬準備)」と「利用者に配薬し、飲ませる段階(配薬時)」でそれぞれ対策を講じるよう示しています。この二つの工程では、ヒューマンエラーが発生する構造が異なるためです。

対策を「ダブルチェック」「研修」「一包化」と並列に並べるだけでは、自施設で何から着手すべきか判断しにくくなります。比較軸として「どの工程で起きているか」を持ち込むと、対策の優先順位がはっきりします。自施設の誤薬が準備の段階で起きているのか、配薬時に起きているのかを切り分けて対策するほうが、構造的にミスを捉えやすくなります。同じ「確認」でも、準備段階の確認と配薬時の確認では、見るべきポイントが異なるからです。

下表は、厚生労働省のガイドラインの記述を「発生工程 × 主な要因 × 具体的な対策」の軸で整理したものです。並列の対策リストではなく、どの工程の対策かが一目で分かるように再構成しています。

発生工程 主な要因 具体的な対策
配薬準備(薬をトレーに用意する段階) 作業の中断・並行業務によるミス 服薬業務に専念できる時間・担当を決める/業務中断をしない環境整備/業務手順書の整備
配薬時(手渡し〜服薬の段階) 印字名と利用者の顔の不一致、本人確認の省略 複数職員での確認/印字された名前を他スタッフに聞こえるよう読み上げる/本人確認の徹底
服薬確認(飲み込みまで) 渡したつもりでも飲めていない(与薬漏れ) 飲み込んだかどうかまで確認することをマニュアルに定め徹底する

出所: 厚生労働省ガイドライン(令和7年11月)の記述を発生工程別に整理

配薬準備の段階で講じる対策

配薬準備の段階では、作業を中断することがミスの原因になります。厚生労働省のガイドラインは、業務中断をしない環境整備を行うよう求めています。具体的には、服薬業務に専念できる時間帯や担当を決め、その間は他のケアを依頼しないといった運用が考えられます。リスク管理者を中心に業務手順書を作成し、服薬業務に専念できる職員体制を整えることも、エラーが起こりにくい環境づくりにつながります。

ここで大切なのは、「専念できる体制」を一人の頑張りに委ねないことです。配薬準備中に他の対応を頼まない、というルールをチーム全体の約束にしておかなければ、忙しい時間帯にはすぐに崩れます。誰がいつ服薬業務を担うかを明確にし、その時間は他の依頼を控えるという合意を、チームの運用として定着させることが要点になります。

配薬時(手渡し〜服薬確認)の段階で講じる対策

配薬時の段階では、新しい職員などが、配薬された薬に印字された名前と利用者の顔を一致させられない場合にミスが起こりやすくなります。厚生労働省のガイドラインは、複数の職員で確認する、印字された名前を他のスタッフに聞こえるように読み上げるなど、多段階での確認を行うよう示しています。声に出して確認する方法は、思い込みによる見落としを防ぐうえで有効とされています。頭の中だけで確認すると見落としても気付けませんが、声に出せば周囲も気付ける状態になるためです。

なお、薬を確実に手渡しても、飲み込まれていなければ与薬漏れになります。飲み込んだかどうかまで確認することをマニュアルに定め、徹底することが、配薬時対策の仕上げになります。配り終えた時点で業務を終わりにせず、口の中に残っていないか、確かに飲み込んだかまでを一連の確認として組み込むことで、与薬漏れを防ぎやすくなります。

※服薬介助の具体的な手順や記録の書き方については、別記事で詳しく解説しています。この記事は、誤薬を「なぜ・どこで」防ぐかという原因と仕組みの視点に絞っています。

要点: 誤薬対策は「ダブルチェックをする」という単発の行動ではなく、配薬準備では業務中断をなくし、配薬時では複数人・読み上げで確認し、最後に飲み込みまで見届ける、という工程ごとの設計に落とし込むことで再発を抑えやすくなります。

服薬記録・申し送り・アラート通知はcarebase(ケアベース)の機能で対応できます。

ヒューマンエラーを減らす環境整備とICT・教育

確認の徹底に加えて、ながら業務の排除・担当の明確化・記録や申し送りの一元化・手順の教育標準化を組み合わせることが、誤薬の再発防止につながります。

厚生労働省のガイドラインは、ヒューマンエラーがなるべく発生しないよう、業務手順書の作成や服薬業務に専念できる職員体制などの環境整備を行うよう示しています。確認の回数を増やすだけでは、忙しい時間帯に形だけのチェックになりかねません。確認が成立する環境そのものを整えることが、対策の土台になります。

ただし、仕組みやツールは万能ではありません。導入しても運用設計が伴わなければ、現場に定着せず形だけになる場合があります。だからまず、誤薬が記録・申し送り・教育のどの工程のずれから起きているかを洗い出し、その工程を支える手段かどうかで判断するのが、失敗を避ける近道になります。ツールを入れること自体が目的になると、入力の手間だけが増えて確認が改善しない、という結果にもなりかねません。

ながら業務をなくす環境整備

前述の特別養護老人ホームの事例では、食事の下膳や利用者対応と並行して服薬業務を行うとミスが起こりやすいため、再発防止策として「服薬業務中は他の業務を行わない」ことをチーム内で徹底し、ルールやマニュアルを整備しました。人を増やせない場合でも、服薬業務に専念する時間や担当を決める運用であれば取り組みやすく、エラーの発生リスクを下げられます。コストをかけずに着手できる点で、多くの施設が最初に手をつけやすい対策です。

記録・申し送りの一元化で情報伝達ミスを減らす

処方変更や中止の指示が共有されないことによる誤薬は、記録と申し送りのずれが原因です。情報が一つの場所に集約され、最新の状態が職員間で共有されていれば、伝達漏れによる誤薬を減らせます。厚生労働省のガイドラインが紹介する事例では、服薬業務をモバイル端末で一元管理できる服薬管理システムを導入し、薬の種類やタイミングが違うとアラートで気付ける仕組みにした特別養護老人ホームの取り組みが示されています。人の確認に頼り切らず、間違いに気付ける仕組みを添えるという考え方です。

記録・申し送り・教育を一つのクラウドにまとめる業務支援ツールも、この情報伝達ミスの低減に対応する選択肢のひとつです。carebase(ケアベース)は、記録と申し送りを一元化し「確認漏れ・情報伝達ミス防止」を機能として備えています。記録した内容をそのまま申し送りに引き継げる設計は、処方変更などの情報が職員間で行き違う場面を減らす方向に働きます。比較軸を「最新の薬の情報を全員が同じ画面で見られるか」に置くと、紙と口頭中心の運用より、情報の一元化に対応したツールのほうが伝達のずれを抑えやすい傾向にあります。

動画マニュアルで手順を教育標準化

誤薬は、新人や夜勤帯など、手順の習熟度に差が出やすい場面で偏りがちです。文章だけのマニュアルでは伝わりにくい配薬・確認の手順を、動画や画像で学べる形にしておくと、教える側の負担を抑えながら手順を標準化できます。carebase(ケアベース)は、操作手順を動画や画像で学べる動画マニュアル機能を備えており、すでに100社以上に導入されています。誰が対応しても同じ手順で確認できる状態に近づけることが、担当者次第で確認のやり方が変わるばらつきを抑える方向につながります。指導役が忙しくて十分に教えられない時間帯でも、同じ内容を繰り返し見られる教材があれば、新人の確認手順が安定しやすくなります。

薬局・多職種との連携

施設内の工夫だけでなく、薬局との連携も識別性を高めます。厚生労働省のガイドラインが紹介する事例では、薬局と連携して分包紙への印字内容を工夫したり、用法ごとに色線を付したりすることで識別性を高め、薬剤の保管・管理に関する相談を通じてミス防止につなげた特別養護老人ホームの取り組みが示されています。薬を分かりやすくする工夫は、現場の確認作業そのものを楽にします。施設側の確認だけで抱え込まず、処方や調剤を担う薬剤師と連携することで、誤薬を防ぐ層を一段増やせます。

要点: 確認の徹底は土台ですが、それを支える「ながら業務の排除」「情報の一元化」「手順の教育標準化」「薬局連携」をあわせて整えることで、確認が成立しやすい環境ができ、誤薬の再発を抑えやすくなります。

誤薬が発生したときの対応と事故報告

誤薬が発生したときは、まず利用者の状態確認と医師・看護職への連絡を行い、記録と施設内での共有を進め、必要に応じて自治体への事故報告につなげます。

厚生労働省のガイドラインは、事故発生時の対応として、初動対応・事故報告・原因分析と再発防止策の検討という流れを示しています。慌てて自己判断で処置しようとするのではなく、決められた流れに沿って動けるよう、手順を事前に共有しておくことが落ち着いた対応につながります。誤薬が起きてから流れを考えるのでは遅く、平時に役割と連絡先を決めておくことが、実際の場面での迷いを減らします。

なお、誤薬後にどのような健康影響が生じうるか、どう処置すべきかといった医療判断は、利用者の状態や服用した薬によって大きく異なります。具体的な対応は、必ず医師や薬剤師など専門職の指示を仰いでください。本記事は一般的な流れの整理にとどめます。

発生直後の初動(状態確認・連絡)

最初に行うのは、利用者の状態確認です。意識やバイタル、体調の変化を観察し、異常があれば速やかに医師・看護職へ連絡します。誤って服用した薬の種類・量・時間といった事実を、分かる範囲で正確に把握しておくと、医療職の判断材料になります。自己判断で吐かせるなどの処置を行うのではなく、把握した事実を専門職に伝え、指示を受けて動くことが基本になります。

記録と施設内共有

初動と並行して、何が起きたかを事実に基づいて記録します。発生時刻・場所・利用者の状態・取った対応を記録し、施設内で共有することで、後の原因分析と再発防止につながります。記録があいまいだと、なぜ起きたのかを正しく分析できません。記憶が新しいうちに、推測ではなく起きた事実を残しておくことが、再発防止の質を左右します。事実を漏れなく書き残すコツは、介護記録の書き方完全ガイド(5W1Hと文例で記録漏れを防ぐ)が、5W1Hの使い方や文例とあわせて参考になります。

自治体への事故報告の判断

誤薬は、自治体への事故報告の対象になりうる事故です(詳しくは次の章で整理します)。報告の要否や様式は所管する市区町村によって基準が異なるため、自施設の自治体の報告基準を事前に確認しておくと、いざというときに迷わず動けます。判断に迷う場合は、自己判断で済ませず所管窓口へ相談するのが安全です。

家族への説明と再発防止

利用者や家族への説明も、信頼を保つうえで欠かせません。事実を誠実に伝え、原因分析と再発防止策をセットで示すことが、施設の説明責任につながります。原因分析では、ミスが業務手順や環境面によるものだったかを確認し、再発防止策ではルールやマニュアルの整備によってエラーの発生リスクを抑える視点を欠かさないようにします。個人の謝罪で終わらせず、同じ環境で再発しないための仕組みを示すことが、家族の納得にもつながります。

誤薬は事故報告の対象になるのか|制度上の位置づけ

誤薬・与薬漏れは、国が示す標準の事故報告様式で事故区分のひとつに挙げられており、多くの自治体が事故報告の対象としています。

厚生労働省は、電子的な報告を想定した介護保険施設等の標準事故報告様式を改訂・周知しており、その様式の事故区分に「誤薬、与薬もれ等」が明記されています(介護保険最新情報Vol.1332(令和6年11月29日)、2026年6月時点)。誤薬は、現場のミスにとどまらず、制度上は自治体へ報告すべき事故として位置づけられているということです。この事実は、誤薬を「内輪で処理すれば済む小さなこと」と捉えないための前提になります。

実際にどの事故を報告対象とするかは、市区町村によって運用が分かれます。社会保障審議会の資料によると、施設による介護事故報告の「範囲」を定めている市区町村は58.2%で、報告対象とする事故の種別(複数回答)では、誤薬・薬剤を挙げる市区町村が74.5%にのぼります(社会保障審議会 介護給付費分科会 第194回 資料2、2020年時点)。同じ資料では、報告の「様式」を定めている市区町村は66.3%でした。多くの自治体が誤薬を報告対象に含める一方で、すべてが同じ基準というわけではありません。

この数字が示すのは、誤薬を報告対象とするかどうかに自治体差があるという事実です。だから、誤薬が起きてから慌てるのではなく、自施設を所管する自治体が誤薬をどう扱っているか、どの様式で報告するかを平時に確認しておくことが、いざというときの適切な対応につながります。

下表は、複数の行政資料から「誤薬の制度上の扱い」を横断的に整理したものです。

観点 内容 出所
標準報告様式での扱い 事故区分に「誤薬、与薬もれ等」を明記 介護保険最新情報Vol.1332(2024年11月)
報告対象とする市区町村 誤薬・薬剤を報告対象とするのは74.5% 社保審 介護給付費分科会 第194回 資料2(2020年)
報告範囲を定める市区町村 58.2% 同上
報告様式を定める市区町村 66.3% 同上

出所: 厚生労働省・社会保障審議会の各一次資料を「誤薬の制度的扱い」の軸で整理

報告された介護事故情報は、半数以上の市区町村で集計や分析が行われ、施設への指導・支援や他施設の実地指導に活用されています(社保審 第194回 資料2、2020年時点)。報告は施設にとって負担に感じられる面もありますが、再発防止と現場改善に役立てられる情報でもあります。報告を「責められるための手続き」ではなく「再発を防ぐための共有」と捉え直すことが、組織として事故と向き合う第一歩になります。

誤薬対策を続けるために|記録・申し送り・教育を仕組みで支える

誤薬対策は、一度の注意喚起で終わらせるのではなく、確認・情報共有・教育を日常業務に組み込んで仕組み化することが、継続のカギになります。

ここまで見てきた内容を整理します。厚生労働省のガイドラインは、誤薬・与薬漏れを「対策を取り得る事故」と位置づけ、配薬準備と配薬時の工程ごとに多段階確認と環境整備を求めています。比較軸として「確認だけに頼るか、確認を支える仕組みまで整えるか」を置くと、再発防止の効果に差が出やすいことが分かります。同ガイドラインがICTによる一元管理や薬局連携の事例を挙げているのも、確認を人の集中力だけに委ねず、間違いに気付ける仕組みで支える方向を重視しているためです。確認を徹底するという掛け声だけでは、忙しさの中で形だけになりやすいからです。

その観点で対策手段を同じ軸で並べると、それぞれの役割が見えてきます。下表は、誤薬対策の主な手段を「対応する課題」「特徴」「留意点」で同粒度に整理したものです。特定の手段を優先するのではなく、自施設の弱い工程に合うかどうかで選ぶ判断材料として使えます。

対策手段 対応する課題 特徴 留意点
多段階確認(複数人・読み上げ) 思い込み・本人確認の省略 追加コストが小さく着手しやすい 人手・時間の確保と、確認が形だけにならない工夫が必要
ながら業務の排除・専念体制 業務中断・並行業務 人を増やさず運用で対応できる 担当・時間帯のルール化が前提
記録・申し送りの一元化 情報伝達ミス・処方変更の共有漏れ 最新情報を職員間で共有しやすい 運用設計と入力の定着が必要
動画マニュアルによる教育標準化 新人・夜勤帯の手順のばらつき 手順を誰でも同じように学べる 内容の更新・運用の継続が必要
薬局・多職種連携 識別のしにくさ・保管管理 分包・表示の工夫で確認が楽になる 薬局との連携体制づくりが必要

出所: 厚生労働省ガイドライン(令和7年11月)の記述を対策手段別に整理

この表のとおり、どの手段にも対応できる課題と留意点があり、万能な一手はありません。自施設の誤薬が情報伝達のずれから起きているなら情報の一元化を、手順のばらつきから起きているなら教育の標準化を、というように、弱い工程に合わせて選ぶのが、ガイドラインの工程別対策の枠組みに沿った進め方です。

このうち「記録・申し送りの一元化」と「教育標準化」を一つのツールでまとめて支える選択肢として、介護施設向けのクラウド型業務支援ツールがあります。carebase(ケアベース)は、記録・申し送りを一元化して「確認漏れ・情報伝達ミス防止」に対応し、動画マニュアルで服薬を含む手順の教育標準化を支援する機能を備えています。情報伝達のずれと手順のばらつきという二つの課題を、記録から教育まで同じ画面で扱えるかという軸で評価すると、機能が分散したツールより一元化型のほうが運用の手間を抑えやすい方向にあります。

よくある質問

誤薬とヒヤリハットはどう違うのですか?

誤薬は、薬の種類・量・対象者・時間などを誤って与えてしまった「実際に起きた事故」を指します。ヒヤリハットは、配り間違えそうになったが直前で気付いたなど、事故には至らなかった「危なかった場面」を指します。医療安全の分野では、重大事故の背景に多数のヒヤリハットが隠れているとされており、ヒヤリハットの段階で原因をつぶすことが事故の未然防止につながると考えられています(日本看護協会、2026年6月時点)。

ダブルチェックは人手不足でも効果がありますか?

確認の人数を増やすこと自体は有効ですが、忙しい時間帯に形だけのチェックになると効果が薄れます。厚生労働省のガイドラインは、確認の回数だけでなく、服薬業務に専念できる環境整備をあわせて求めています。人を増やしにくい場合は、印字名を声に出して読み上げる、服薬業務中は他業務を依頼しないといった運用の工夫で、限られた人手でも確認が成立しやすくなります。

誤薬が起きたら必ず自治体に報告する必要がありますか?

報告の要否や基準は、所管する市区町村によって異なります。誤薬・薬剤を報告対象とする市区町村は74.5%にのぼりますが、すべての自治体が同じ基準というわけではありません(社保審 第194回 資料2、2020年時点)。自施設を所管する自治体の報告基準・様式を事前に確認し、判断に迷う場合は所管窓口へ相談してください。

まとめ

誤薬は、思い込みや確認不足というヒューマンエラーで起こりやすい事故ですが、厚生労働省は「対策を取り得る事故」と位置づけ、配薬準備と配薬時の二段階で多段階確認を行い、ながら業務を排除する環境整備を求めています。確認の徹底に加え、記録・申し送りの一元化や手順の教育標準化、薬局連携といった仕組みで支えることで、確認が成立しやすい環境が整い、再発を抑えやすくなります。誤薬・与薬漏れは標準の事故報告様式で区分が定められた報告対象でもあり、自施設の所管自治体の基準を平時に確認しておくことが、いざというときの適切な対応につながります。自施設のどの工程で誤薬が起きやすいかを切り分け、対策を取り得る部分から仕組み化していくことが、誤薬対策を続けるための現実的な道筋になります。

服薬記録と申し送りで誤薬を防ぐ運用にするならcarebase(ケアベース)

誤薬対策では、最新の処方情報を職員全員が同じ画面で確認でき、配薬・服薬の記録をそのまま申し送りに引き継げる状態が、情報伝達のずれを抑える土台になります。carebase(ケアベース)は、記録・申し送りの一元化による「確認漏れ・情報伝達ミス防止」と、動画マニュアルによる服薬手順の教育標準化に対応した介護施設向けの業務支援ツールで、すでに100社以上に導入されています。

介護ソフトの導入や見直しをご検討中の方は、まずは情報収集から始めてみませんか。
carebase(ケアベース)では、現場に定着する介護記録システムとして、多くの事業所でご活用いただいています。
費用や機能、導入事例について詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

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