carebase(ケアベース)コラム

2026.7.8

執筆者:柴田崇晴

介護BCPとは?義務化・作り方・研修まで2026年完全ガイド

打ち合わせをするスタッフ(BCP・事業継続計画のイメージ)

監修者プロフィール

  • 監修者名:柴田崇晴
  • 経験年数:25年の相談支援業務
  • 保有資格
    • 社会福祉士
    • 主任介護支援専門員
  • 専門分野:介護施設運営・職員教育等
  • 経歴概要
    福祉大学を卒業後、高齢者福祉の分野で25年従事。高齢者施設の管理者をしながら都道府県・市町村の職能団体役員として活動中

介護BCP(業務継続計画)は、令和6年4月から全介護サービス事業者に義務化された、感染症や自然災害でもサービスを継続するための計画です。一方で令和5年時点の公的調査では、感染症BCPの策定完了は約3割にとどまり、半数以上が「策定中」という段階でした(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。義務化の要件・未策定減算・作り方・研修まで、厚労省の一次情報で整理します。

介護施設のBCP(業務継続計画)とは?

感染症BCPは縮小継続・自然災害BCPは早期復旧と性質が異なり、策定→研修→訓練→見直しのPDCAで運用する全体像を整理した概念図

介護BCPは感染症と自然災害の2種を分けて作り、策定後も研修・訓練・見直しを回す(出所: 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン」の整理に基づき編集部作成)

介護BCPとは、感染症や自然災害などの緊急時でも利用者の生命と生活を守りながら介護サービスを継続するための、方針・体制・手順を定めた計画です。

BCPは「Business Continuity Plan」の略で、日本語では業務継続計画と訳されます。介護施設のBCPには感染症BCPと自然災害BCPの2種類があり、どちらも策定が必要です。新型コロナウイルスの感染拡大期に、多くの施設で職員の同時欠勤やサービス縮小を迫られた経験が、計画づくりの必要性を後押ししました。

緊急時に求められるのは、止められない業務を見極め、限られた人員と設備で何を優先するかをあらかじめ決めておくことです。BCPは「作ること」ではなく「現場で機能すること」が目的であり、計画書を整えただけでは緊急時に役立ちません。感染症と自然災害では発生の仕方も対応も大きく異なるため、それぞれの特性に合わせて別々に組み立てる点が、一般的な事業計画との違いです。

BCPで定めるのは緊急時の対応だけではありません。平常時の体制づくりや関係者の連絡先の整理、必要な物品の備蓄、職員の安否確認方法など、平時から準備しておく事項も計画の柱になります。介護施設のBCPは「策定して終わり」ではなく、職員への研修・訓練、定期的な見直しまでを含めて初めて意味を持ちます。利用者の多くが高齢で、移動や避難に支援を要するため、緊急時に職員が迷わず動ける状態をつくっておくことが、利用者の生命と生活を守るうえで欠かせません。義務化の要件を満たすだけでなく、現場の人員体制や利用者の状態に即した運用まで踏み込むことが、実際に機能するBCPの条件になります。

介護BCPの義務化はいつから?未策定減算と経過措置

令和3年度改定で義務化決定→3年経過措置→令和6年4月完全施行の流れと、未策定減算が施設居住系3%・通所訪問系1%であることを示した制度図解

令和6年4月に完全施行。未策定減算は施設・居住系3%/その他1%で、経過措置の適用時期はサービス種別で異なる(出所: 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関する通知・Q&A」の整理に基づき編集部作成)

介護BCPは令和3年度の介護報酬改定で義務化され、3年間の経過措置を経て、令和6年4月1日から全介護サービス事業者に完全施行されました。未策定の場合は基本報酬の減算対象になります。

「義務化」という言葉だけが先行しがちですが、正確な経緯と適用のタイミングを押さえると、自施設が取るべき対応が見えてきます。BCPの義務化は令和3年度改定で決まり、当初から3年間の経過措置が設けられていました。その経過措置が令和6年3月31日で終わり、令和6年4月1日から本格的な適用が始まっています。

義務化された内容はBCP策定だけではない

義務化されたのはBCPの策定そのものだけではありません。策定・研修・訓練・定期的な見直しというPDCAの仕組み全体が義務付けられています。杉並区の事業者向け案内でも、令和6年4月1日から義務化となる事項として「BCP(業務継続計画)の策定」「定期的な研修及び訓練の実施」「定期的なBCPの見直し」が挙げられています(杉並区、2026年6月時点)。

計画書を1冊作って終わりではなく、感染症と自然災害の両方のBCPを整え、職員に研修・訓練を重ね、内容を見直し続けることまでが一体で求められます。同じ令和6年4月には認知症介護基礎研修の義務化など他の取り組みも経過措置を終えて本格適用されており、BCPはその一つに位置づけられます。BCP本体の作り方やテンプレートの使い方は介護施設のBCP策定完全ガイド|義務化対応・作り方・テンプレート、義務化された研修の種類・実施方法・記録保管の整理は介護施設の法定研修を完全解説も参考になります。

業務継続計画未策定減算は3%と1%

BCPが未策定の場合、業務継続計画未策定減算の対象になります。減算率はサービス区分で異なり、施設・居住系は所定単位数の3%、その他(通所・訪問系等)は1%です。厚生労働省の令和6年度介護報酬改定資料では、「業務継続計画未策定減算として、所定単位数の100分の3(または100分の1)に相当する単位数を所定単位数から減算する」と新設の規定が示されています(厚生労働省、2026年6月時点)。

ここで見落としやすいのが経過措置です。施設・居住系であっても、感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備と、非常災害に関する具体的計画の策定を行っている場合には、令和7年3月31日までの間は減算を適用しないとされています。また通所・訪問系等への減算適用は令和7年4月1日からです(厚生労働省、2026年6月時点)。

すでに感染症指針や非常災害計画を整えている施設なら、すぐに減算がかかるわけではありません。とはいえ猶予の終わりは決まっています。減算率は所定単位数に対する割合のため、利用者数が多い施設や入所系サービスほど、未策定が続くと影響額が積み上がります。自施設が経過措置のどの段階にあるかを確認し、令和7年4月以降を見据えてBCP本体の整備を計画に落とし込むことが、減算回避につながります。

障害福祉サービスも同様に減算対象

障害福祉サービスでも、令和6年度の報酬改定で業務継続計画未策定減算が制度化されました。減算率はサービス種別で異なり、施設・居住系は3%、訪問・通所系は1%で、介護保険サービスと同じ枠組みです。適用は原則として令和7年4月からで、介護サービスより1年遅れての実施になります。介護・障害のどちらの事業も運営する法人では、適用時期の差を踏まえた整備計画が必要です。

なお、義務化されたBCPは運営指導(実地指導)でも確認されます。BCPは「あるか・ないか」ではなく「あることを前提に内容が深く確認される」性質の項目であり、策定だけでなく研修・訓練の実施記録まで提示できる状態にしておくことが求められます。研修が未実施の場合も減算対象になるため、計画・実施・記録を一体で整えておくことが、運営指導への備えになります。

要点: 介護BCPは令和6年4月に完全施行され、施設・居住系3%/その他1%の未策定減算があるものの、感染症指針と非常災害計画があれば施設・居住系は令和7年3月末まで、通所・訪問系等は令和7年4月から適用という段階差がある点が、対応の判断材料になります。

介護BCP策定の実態|公的調査で見る策定率と課題

感染症BCPの策定完了29.5%・自然災害BCP27.0%という策定率と、規模差・時間確保の課題・策定後の訓練未実施が過半という公的調査の実態をまとめたダッシュボード図

策定完了は3割前後で過半が「策定中」。小規模ほど遅れ、策定後の訓練未実施が過半を占める(出所: 厚生労働省「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(令和5年7月)」の整理に基づき編集部作成)

厚生労働省の公的調査では、令和5年時点で感染症BCPの策定完了は約3割で、半数以上が「策定中」でした。施設規模が小さいほど策定が遅れる傾向も示されています。

義務化が完全施行された一方で、現場の整備状況には差があります。厚生労働省が令和5年7月に実施した取組状況調査(事業所アンケートの有効回収5,200件、回収率52.0%)は、介護BCPの実態を把握できる貴重なデータです(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。

調査結果のうち、BCP策定状況は次のとおりでした。

区分 策定完了している 策定中である 未策定(未着手)
感染症BCP 29.5% 54.8% 15.5%
自然災害BCP 27.0% 55.2% 17.0%

策定状況(N=5,200)。出所: 厚生労働省「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握及びICTの活用状況に関する調査研究事業(結果概要)」(調査時点は令和5年7月)

策定完了と策定中を合わせると感染症BCPで84.3%、自然災害BCPで82.2%に達します。多くの施設が着手していること自体は読み取れますが、調査時点で「策定完了」が3割前後だった点は、義務化への対応が容易でなかった現実を映しています。

施設規模による差も見られます。感染症BCPで「策定完了」または「策定中」と回答した割合は、職員50人以上の事業所で92.3%、職員10人未満の事業所で80.5%と開きがありました。自然災害BCPでも50人以上が90.2%、10人未満が78.3%で、小規模事業所ほど策定が遅れる傾向が共通しています。人員に余裕がない事業所ほど、計画づくりに時間を割きにくい構造が背景にあります。

未策定(未着手)の事業所が挙げた最大の課題は「策定にかける時間を確保すること」で、感染症BCPで73.0%、自然災害BCPで73.5%にのぼりました。比較軸で見ると、ノウハウ不足よりも時間の確保が最大の壁です。小規模事業所がゼロから自作するのではなく、後述する国のひな形を起点にして作業時間を圧縮するアプローチは、限られた人員でも現実的に進められる方法です。

策定後の取り組みにも傾向があります。同じ調査では、策定完了した事業所がBCP策定後に行う取り組みの頻度として、委員会は月1回(21.6%)、研修と訓練は半年に1回(研修29.2%、訓練18.5%)、見直しは1年に1回(27.6%)で実施する割合が高いという結果でした。また、感染症BCPの策定後の効果としては「感染症に備えた対応事項を組織内で共有することができた」と回答した割合が73.9%で最も高く、計画づくりそのものが組織内の認識共有に役立っていることもうかがえます(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。策定後の経過期間が長い事業所ほど「関係者への周知」「研修」「訓練」「見直し」を実施している割合が高い傾向も示されており、早く着手するほど運用が定着しやすい関係が読み取れます。

策定時期の分布も、義務化が後押しになったことを示しています。感染症BCPを「策定完了」した事業所のうち、令和3年度以降に策定したのは91.6%、自然災害BCPでも82.7%でした(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。義務化の経過措置期間に多くの施設が一斉に取り組んだ構図で、裏を返せば、それまでBCPを整えていなかった施設が大半だったことになります。周囲も同時期に着手したという前提を踏まえつつ、自施設が「策定済みだが運用が止まっている」段階にないかを点検することが、形骸化を避ける第一歩になります。

BCPに関わる記録・教育・情報共有はcarebase(ケアベース)の機能で対応できます。

要点: BCPは策定だけでなく研修・訓練・更新まで回す運用が課題です。自施設が「未着手」「策定中」「策定後の運用」のどの段階にあるかを見極めたうえで、いま優先すべき作業を絞り込むと、限られた人員でも前進させやすくなります。

感染症BCPと自然災害BCPの違い

感染症BCPは業務を縮小しながら継続する「縮小継続」、自然災害BCPは被害を抑えつつ早期に復旧・再開することが基本で、備えも対応も異なります。

通常の業務レベルを100とすると、感染症が発生したときは感染拡大を防ぐために業務レベルを意図的に下げて対応します。一方、地震などの自然災害では、被災状況によって業務レベルが一気に0近くまで落ち込む可能性があります。この性質の違いから、2つのBCPは分けて策定することが求められます。両者の違いは、次の3つの観点で対応が分かれます。

観点 感染症BCP 自然災害BCP
発生の特徴 人から人へ徐々に拡大。初期対応の遅れが被害拡大につながる 地震・台風などで突発的に発生。発生直後の迅速な初動対応が必要
業務継続の考え方 感染拡大を防ぎつつ業務レベルを調整し、必要最低限のサービスを維持する「縮小継続」 被害を最小限に抑えつつ、いかに早く復旧・再開するか
対応・備え 隔離対応・ゾーニング・動線管理による感染防止。日常的な予防と早期発見 避難行動の確保、電気・水・食料などライフラインの維持。事前の備蓄や訓練

感染症BCPと自然災害BCPの比較。出所: 厚生労働省「介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン」「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」の整理に基づき編集部作成

感染症は備蓄や動線設計といった日常的な準備が効く一方、自然災害は安否確認や参集基準、ライフライン確保といった初動と復旧の段取りが要になります。前述の調査でも、自然災害BCPで定めている方針として「リスク(ハザードマップなどの確認、被害想定)の把握」が87.8%、「職員の安否確認方法や参集基準」が80.9%、「必要品(飲料・食品、医薬品・日用品等)の備蓄」が80.7%と高く、感染症BCPでは「消毒液や防護具の備蓄」が81.6%と高い結果でした(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。同じ「備蓄」でも、感染症と自然災害では揃える物品や視点が異なる点に、両者を分けて作る意味が表れています。

感染症BCPでは、このほか「平常時の対応、緊急時の対応」を定めている割合が91.5%、「関係者の連絡先の整理、連絡手段等」が82.0%と高く、自然災害BCPでは「災害対応に関する基本方針」を90.7%、「利用者の安否確認方法」を79.8%の事業所が定めていました(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。どちらのBCPも、緊急時の手順だけでなく平常時の備えと連絡体制を柱に据えている点が共通します。それぞれのガイドラインは厚生労働省が公開しており、感染症発生時の業務継続ガイドライン自然災害発生時の業務継続ガイドラインが一次資料になります。

介護BCPの作り方3ステップ

介護BCPは、国のひな形を土台にし、ハザードマップで自施設のリスクを確認し、多職種で内容を検討する3ステップで作成できます。

「何から書けばよいか分からない」という状態でも、順を追えば作業は進みます。前述の調査でも、2〜3ヶ月程度以内に策定した事業所が感染症BCPで69.4%を占めており、計画的に取り組めば数ヶ月で形にできることが示されています(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。

ステップ1:国のひな形を起点にする

ゼロから作る必要はありません。厚生労働省は感染症・自然災害それぞれのひな形(入所系・通所系・訪問系など)を公開しており、項目を埋めていくだけで基本的なBCPの骨組みができます。作り方や机上訓練の解説動画も用意されているため、研修を受ける感覚で進められます(厚生労働省、2026年6月時点)。前述の調査でも、策定完了した事業所の80.9%(感染症BCP)が厚労省ガイドラインを活用しており、ひな形の活用は標準的な進め方になっています。ひな形に記載例が用意されている点も、作成経験がない担当者がレベル感をつかむ助けになります。

ステップ2:ハザードマップで自施設のリスクを確認する

自然災害といっても、想定されるリスクは施設の立地で大きく変わります。地震だけでなく、土砂崩れ・津波・洪水など、地域や周辺環境によって被災の可能性は異なります。まず取り組むべきは「自施設にどのような災害リスクがあるか」を正しく把握することです。国土地理院のハザードマップポータルサイトでは、洪水・内水・土砂災害・津波などの被害想定区域や避難場所を地図で確認できます(国土地理院、2026年6月時点)。確認した最も可能性の高い災害を起点に、計画を組み立てます。立地によっては複数の災害リスクが重なる場合もあるため、想定を一つに絞り込まず、影響の大きい順に検討すると抜け漏れを防げます。

ステップ3:多職種で検討する

BCPは担当者一人で完成させるものではありません。介護職・看護師・リハビリスタッフなど、多職種の視点を持ち寄ることで、非常時に起こり得る課題や優先すべき対応が具体的に見えてきます。介護職は生活支援や居住環境、看護師は医療的ケアの継続、リハビリスタッフは身体機能の維持や安全な移動方法という具合に、専門性に応じた気づきがBCPの実際の効果を高めます。BCP委員会のような体制を設けてチームで作成すると、後の研修・記録・見直しも回しやすくなり、担当者の異動や退職で計画が止まるリスクも下げられます。

介護BCPテンプレート活用のメリットと注意点

厚生労働省のテンプレート(ひな形)は作成のハードルを下げますが、自施設に合わせず流用すると実際の効果が下がるため、たたき台として使うのが適切です。

テンプレート活用のメリット

テンプレートを使うと、BCP作成の負担を大きく減らせます。

  • 必要な項目があらかじめ整理されているため、全体像を把握しやすい
  • 記載例があり、具体的な書き方やレベル感をイメージできる
  • 一から作成するよりも時間や労力を大幅に削減できる
  • 国の指針に沿った内容のため、基本的な抜け漏れを防げる

複数の事業所を同時に整備する法人や、初めて取り組む施設では、テンプレートを土台にすると一定水準の計画を効率よく用意できます。未策定事業所の最大の課題が「時間の確保」だったことを踏まえると、ひな形による時間短縮は理にかなった選択です。

テンプレート利用時の注意点

一方で、テンプレートに頼りすぎると効果の低いBCPになりやすい点に注意が必要です。役割分担や連絡体制が現場の実態とかけ離れたり、「作ること」が目的になって運用や訓練につながらなかったり、職員が内容を理解しておらず緊急時に活用できなかったりすると、いざという時に機能しません。

とくに避けたいのが、他の施設のBCPをそのままコピーすることです。想定される災害の種類・立地環境・建物構造・職員体制・利用者の状況は施設ごとに異なるため、他施設で有効だった対策が自施設でも機能するとは限りません。ひな形や他施設の例はあくまで参考にとどめ、施設周囲の地域性や利用可能な資源を確認しながら、自施設の状況に合わせて中身を作り込むことが、効果を左右します。スタッフ自身が業務継続の方法を検討するプロセスそのものが、計画を「使えるもの」にしていきます。

他施設の例を流用する際にも、役割分担や連絡体制、優先業務の判断基準は自施設の人員体制に合わせて見直すことが欠かせません。テンプレートはあくまで全体像をつかみ、抜け漏れを防ぐための土台であり、最終的な効果は自施設の実態をどれだけ反映できるかで決まります。

介護BCP研修・訓練の進め方と実効性

BCP研修・訓練は、入所系で年2回以上、通所・訪問系等で年1回以上の実施が必要で、講義・机上訓練・情報伝達訓練を組み合わせると形だけの研修になることを防ぎやすくなります。

研修・訓練の頻度はサービス種別で異なります。入所系は年2回以上、通所・訪問系等は年1回以上の研修・訓練が必要です。一宮市の案内では、年2回が必要なサービスとして特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護医療院・認知症対応型共同生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護・地域密着型介護老人福祉施設が挙げられ、それ以外は年1回とされています(一宮市、2026年6月時点)。なお、消防法に基づく避難訓練(建物火災を想定した年2回以上の訓練)はBCPの研修・訓練とは別建てであり、両方を実施する必要があります。

研修・訓練の種類を組み合わせる

研修・訓練は1種類で完結させるよりも、目的の異なる方法を組み合わせるほうが効果が高まります。代表的な方法を整理します。

種類 内容 ポイント
基礎研修・講義 災害用語・自然災害の種類・備蓄など基礎知識を講義で学ぶ 外部講師やeラーニング、動画を活用でき、個人研修にも応用しやすい
机上訓練(グループ演習) 施設の平面図を広げ、災害時のリスク・避難場所・経路を確認する 危険箇所を見える化し、ハザードマップと突き合わせて状況を具体的にイメージする
情報伝達訓練 ITツール等で被災情報や参集行動の連絡手順を確認する 受信確認のみのため定期的に実施しやすく、平時の連絡網としても活用できる
地域との合同研修 災害発生からフェーズごとの対応・課題を地域マップで確認する 地域ケア会議として開催可能。多機関連携のネットワークづくりにつながる

BCP研修・訓練の方法。出所: 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン」および同省の研修・訓練資料の整理に基づき編集部作成

研修計画を立てるときは、まず災害・感染症などのテーマを設定し、ハザードマップで自施設周辺の最も可能性の高いリスクを想定して内容を組み立てると、現場に即した訓練になります。新人職員とベテラン職員では災害や感染症への判断力に差があるため、ベテランの経験や工夫を共有し、誰でも同じ水準で対応できる体制をめざすことも、研修の重要な役割です。

「作って終わり」を防ぐ運用の工夫

BCPで最も難しいのは、策定後に研修・訓練を続けることです。前述の調査では、策定完了した事業所のうち策定後に「訓練なし」と回答した割合が感染症BCPで63.8%、自然災害BCPで55.8%にのぼりました(厚生労働省、調査時点は令和5年7月)。計画は整えたものの、訓練まで手が回っていない施設が過半を占めていたことになります。

形だけの研修を防ぐには、研修の質と参加しやすさの両方を高める工夫が役立ちます。人手不足で現場を離れにくい職員には、事前に資料を配って講義時間を短縮したり、講義を録画していつでも視聴できるようにしたりすると、参加の機会を確保しやすくなります。研修への参加率と満足度は連動しており、参加した職員が「また参加したい」と感じる内容にすることが、次回以降の参加率を支えます。ロールプレイでは架空の設定ではなく、自施設のフロアや実際の利用者を想定すると、現場に即した訓練になります。研修後に「実際に対応できそうか」「どんな課題が残ったか」を参加者同士で振り返ると、次の改善点が明確になり、BCPの精度向上にもつながります。義務化された研修だからこそ、チームワークの醸成や多職種連携の機会としても位置づけると、参加する職員にとっての意味が増し、継続しやすくなります。研修・訓練はPDCAサイクルの一部であり、実施して終わりではなく、振り返りで見えた課題を次回の計画と訓練内容に反映していく循環をつくることが、効果の高いBCP運用につながります。

BCP研修・記録の残し方と保管

BCP研修の記録は、日時・参加者・想定・内容・評価を残し、運営指導でいつでも提示できる状態に整えることが重要です。

運営指導(実地指導)では、事業所が法令に沿って運営されているかを行政が確認します。BCPの策定や研修の実施も確認対象であり、「あるか・ないか」ではなく「あることを前提に内容が深く確認される」と考えておくと安全です。研修が未実施の場合は減算対象にもなるため、計画的な実施と記録が欠かせません。研修記録が部署ごとにばらばらだったり、資料だけで当日の様子が分からなかったりすると、取り組みを十分に示せず、過去の気づきが次回の改善に活かされにくくなります。記録の整え方は介護の実地指導(運営指導)チェックリスト|確認項目と準備の進め方とあわせて確認すると、確認されるポイントを押さえやすくなります。

記録に残すべき基本項目

研修記録は、後から第三者が見ても内容を再現できる形にしておくことがポイントです。

記録項目 ポイント 記載例
日時・場所 年度ごとに回数が定められているため、年度まで記載する 令和〇年●月◎日(△)/特養〇〇園 食堂
参加者 講師・参加者・所属・役割を記載すると次回開催の参考になる 講師:A主任、司会:B副主任、参加者:C・D・E、記録:C
研修想定 いつ・何時頃・どのような災害が起きたかを具体的に設定する 令和〇年△月△日15時に震度4の地震が発生
内容 何を実施し、どのツールを使ったかを記載。当日の写真も有効 出勤者の初動対応、避難場所を平面図で確認しBCPと照合
評価・課題 PDCAサイクルに沿って評価する 評価シートの活用や参加者アンケートの実施

BCP研修記録の基本項目。出所: 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続ガイドライン」の研修・訓練記録の考え方の整理に基づき編集部作成

記録の管理を特定の職員だけに任せると、その人の異動や退職で書類が行方不明になるリスクがあります。保管場所や様式を統一し、BCP委員会のようなチームで作成・研修・記録を担う体制にしておくと、特定の人に頼った状態を防げます。

紙とクラウドの保管を比較する

研修記録の保管方法は、紙とクラウド(パソコン)で一長一短があります。評価軸ごとに整理すると、自施設に合う方法を選びやすくなります。

評価軸 紙ファイルでの保管 クラウド(パソコン)での保管
停電・障害時の可用性 停電時でも確認できる 停電・ネットワーク障害時は閲覧できない
更新の容易さ 最新版への差し替え漏れが起こりやすい 更新や修正が簡単
共有のしやすさ 保管場所が分からないと見られない 職員間で共有しやすい
検索性 必要な書類を探すのに時間がかかる 検索機能で必要情報を探しやすい
操作のしやすさ パソコン操作が苦手な職員でも扱える 操作に不慣れな職員には使いづらい
災害への強さ 水害・火災など物理的災害に弱い 誤削除や上書きのリスクがある

研修記録の保管方法の比較。出所: 介護施設における紙・クラウド記録運用の一般的な比較観点の整理に基づき編集部作成

比較軸で見ると、紙は停電時の可用性や操作のしやすさで優れ、クラウドは更新・共有・検索で優れています。どちらか一方が万能というわけではなく、災害時や感染症発生時にどの方法が有効かをあらかじめ運用ルールとして決めておくことが大切です。停電時にも参照できる紙の控えを残しつつ、日常の更新・共有はクラウドで行うといった併用も選択肢になります。記録を電子化する際の注意点は介護施設における個人情報保護と記録管理|電子化で注意すべきポイントも参考になります。

BCPの記録・教育・情報共有を効率化するならcarebase(ケアベース)

BCPは更新・共有・研修・記録を継続する運用が難しく、これらをクラウドで1つにまとめることが、現場で機能させるための選択肢になります。carebase(ケアベース)は介護記録・申し送り・教育をクラウドで一元化する業務支援システムで、BCPマニュアルや研修記録、周知事項の管理にも活用できます。

ここまで見てきたように、BCPの課題は「作ること」よりも「運用し続けること」に集中しています。紙やExcelでの管理では、最新版の差し替え漏れや、特定の職員に管理が依存して異動・退職時に書類が行方不明になるといった問題が起こりがちです。前述の調査でも、未策定事業所の最大の課題は時間確保であり、策定後も訓練が止まる施設が過半でした。運用負担をいかに下げるかが、BCPを形だけにしないための鍵になります。

carebase(ケアベース)は、介護記録・申し送り・教育(動画マニュアル)をクラウドで一元化する介護施設向けの業務支援システムです。BCPの文脈では、次のような運用ができます。

  • BCPマニュアルや研修資料、実施記録、周知事項をクラウド上で一元管理できる
  • 更新内容がリアルタイムで反映され、全職員に常に最新の情報を共有できる
  • 動画とテキストを組み合わせた研修コンテンツを作成・配信でき、研修の効率化につながる
  • スマートフォンやタブレットからアクセスでき、停電などで施設のIT機器が使えない状況でも、安全な場所からBCPを確認できる

BCPは策定だけでなく更新・共有・研修・記録という運用が課題でした。比較軸で見ると、クラウドでの一元管理は、これらを担当者個人に依存させず継続的に回す仕組みづくりに適しています。紙中心の運用に限界を感じている施設や、研修記録の管理を効率化したい施設は、クラウドツールの活用を選択肢に入れて検討する余地があります。

介護BCPに関するよくある質問(FAQ)

Q. 介護BCPの義務化はいつからですか?

令和3年度の介護報酬改定で義務化され、3年間の経過措置を経て令和6年4月1日から全介護サービス事業者に完全施行されました。策定・研修・訓練・定期的な見直しが対象です(杉並区、2026年6月時点)。

Q. BCPを策定しないと減算されますか?減算率はいくらですか?

業務継続計画未策定減算の対象になります。減算率は施設・居住系が所定単位数の3%、その他(通所・訪問系等)が1%です。ただし感染症の指針整備と非常災害の具体的計画があれば、施設・居住系は令和7年3月31日まで適用されず、通所・訪問系等は令和7年4月1日から適用されます(厚生労働省、2026年6月時点)。

Q. 介護BCPは感染症と自然災害の両方が必要ですか?

両方の策定が必要です。感染症と自然災害のいずれか一方でも未策定の場合は、未策定減算の対象になります(大阪府、2026年6月時点)。

Q. BCP研修・訓練は年に何回必要ですか?

入所系(特養・老健・介護医療院・認知症対応型共同生活介護・地域密着型特定施設・地域密着型介護老人福祉施設)は年2回以上、それ以外のサービスは年1回以上の実施が必要です。消防法に基づく避難訓練とは別建てで行います(一宮市、2026年6月時点)。

なお、減算の適用や経過措置の細かな取り扱いは事業所のサービス種別や状況によって異なるため、個別の判断は所管の自治体(指定権者)に確認することをおすすめします。

まとめ

介護BCPは令和6年4月に全介護サービス事業者へ完全施行され、感染症・自然災害の両方の策定に加え、研修・訓練・見直しまでが義務付けられています。未策定減算は施設・居住系3%/その他1%で、経過措置の適用時期はサービス種別によって異なります。公的調査では多くの施設が着手済みである一方、策定後に訓練が止まる施設が過半を占めており、BCPは「作ること」ではなく「現場で機能させ続けること」が課題だと分かります。国のひな形やハザードマップを起点に、多職種で作り込み、研修・記録の運用を継続できる仕組みを整えることが、減算回避と利用者の安全確保の両面で重要になります。

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