2026.8.21
介護の緊急時対応マニュアル|手順・救急要請の基準と記録
介護の緊急時対応は、安全確保と反応の確認、応援要請、医療職への連絡と救急要請、記録・報告という順で進めます。救急隊の現場到着は全国平均で約10.0分のため、その約10分に誰が何をするかを決めてあるかどうかで初動が変わります(総務省消防庁、令和5年中)。場面別の初動から市町村への事故報告までを、施設のルールとして整えられる形で整理します。
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介護現場の「緊急時」とはどこまでを指すのか
病気そのものより転倒・打撲などの事故由来で高齢者の比率が高い(出所: 総務省消防庁「令和6年版消防白書」令和5年中に基づき編集部作成)
介護現場の緊急時とは、利用者の身体に急な変化や事故が起きて、その場での判断と対応が必要になる場面を指します。転倒・転落、発熱や意識の変化、嘔吐や誤嚥、入浴中の急変、誤薬などが代表例です。地震や火災、感染症の集団発生も広い意味では緊急事態にあたりますが、こちらは業務継続計画(BCP)の領域として別に備えます。
救急搬送の統計から見える、施設で起きやすい事故
令和5年中の救急自動車による搬送人員は664万1,420人で、そのうち高齢者(満65歳以上)は409万3,552人と61.6%を占めています。事故種別で見ると、転倒や打撲などの一般負傷では高齢者が76万4,069人で72.1%にのぼり、急病の62.6%よりも高い比率です(総務省消防庁「令和6年版消防白書」、2026年8月時点)。
データ上は、病気そのものよりも「転んだ・ぶつけた」といった事故由来の搬送で高齢者の割合が高くなっています。施設内で日常的に起こりうる転倒・転落こそが、初動の設計対象として比重の大きい場面だと読み取れます。緊急時対応の手順も、急病だけを想定した医療的な内容ではなく、事故を見つけた直後の動き方から組み立てるほうが現場の実態に合います。
緊急時に含まれる代表的な場面
介護施設で緊急時対応が必要になる場面は、おおむね次の5つに整理できます。
- 転倒・転落: 居室・廊下・トイレ・ベッドからの転落など。発見時点で受傷の有無が分からないことが多い場面です
- 発熱・意識の変化: 呼びかけへの反応が鈍い、いつもと様子が違うといった変化を含みます
- 嘔吐・誤嚥: 食事中や食後に起こりやすく、窒息につながる可能性があります
- 入浴中の急変: 温度変化と血圧変動が重なり、意識消失が起こりうる場面です
- 誤薬: 服薬後に気づく場面が中心で、薬剤名と服用時刻の特定が初動の要点になります
誤薬については、原因の分析や防止のしくみづくりを介護施設の誤薬対策の記事で詳しく解説しています。災害や感染症への備えは介護BCPの記事を参照してください。
運営基準が施設に求めている「緊急時等における対応方法」
緊急時の対応は、職員個人の判断力に任せる話ではなく、施設があらかじめ決めておく事項として基準に書かれています。指定介護老人福祉施設の運営基準では、入所者の病状が急変した場合などに備え、医師および協力医療機関の協力を得て「緊急時等における対応方法」をあらかじめ定めておくことが求められています。さらに、その対応方法は一年に一回以上見直し、必要に応じて変更することまで規定されています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。
訪問系のサービスでは規定の立て付けが異なります。訪問介護では、利用者に病状の急変が生じた場合その他必要な場合に「速やかに主治の医師への連絡を行う等の必要な措置」を講じることとされており、連絡先の第一手が主治医に置かれています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。施設系と訪問系では最初に繋ぐ相手が違うため、事業所の種別に合わせて連絡先の設計を分ける必要があります。
利用者の急変を発見してからの対応手順
手順書は約10分の時間軸に置き直すと粒度を点検できる(出所: 総務省消防庁「令和6年版消防白書」令和5年中に基づき編集部作成)
急変や事故を発見したら、安全確保と反応の確認、応援要請、医療職への連絡と救急要請、情報整理、家族連絡の順に進めます。救急隊の現場到着所要時間は全国平均で約10.0分です(総務省消防庁「令和6年版消防白書」、令和5年中)。手順書を点検するときは、この約10分をどう分けて使うかという時間軸に置き直すと、抜けが見つけやすくなります。
安全を確保し、反応と呼吸を確認する
最初にすることは、これ以上の被害が広がらない状態をつくることです。転倒であれば周囲の家具や床の濡れを確認し、誤嚥であれば口腔内の残留物を目視で確かめます。二次的な事故を防いだうえで、名前を呼びかけて反応の有無を確認します。
反応がある場合は、その場で無理に起き上がらせず、本人が楽な姿勢を保ったまま観察を続けます。反応がない、呼吸がおかしいといった状態であれば、この時点で救急要請と医療職への連絡を同時に動かす段階に入ります。判断に自信が持てない状態でも、確認した事実(呼びかけへの反応、呼吸の様子、顔色)をそのまま伝えれば、医療職が緊急度を判断できます。
その場を離れずに応援を呼び、役割を分ける
発見者は原則としてその場を離れません。利用者から目を離した数十秒の間に状態が変わることがあるためです。応援は、ナースコール、インカム、大声での呼びかけなど、施設で決めた方法で呼びます。
応援が来たら、その場で役割を分けます。発見者は観察と声かけを続け、応援者が連絡と記録、もう1名がいれば救急隊の誘導と他の利用者への対応にあたるという分担が基本形です。夜勤帯で職員が1名の場合は、この分担が成立しません。だからこそ、1名夜勤の時間帯に誰へ連絡するか(オンコール担当、協力医療機関、系列施設など)を、勤務表と同じ粒度で決めておく必要があります。
医療職へ連絡し、救急要請の判断につなぐ
施設内に看護職員がいる時間帯であれば、まず看護職員へ状況を伝えます。伝える内容は、いつ・どこで・誰が・どういう状態か、という事実に絞ります。判断や推測を混ぜると、受け手が状態を再構成できなくなります。
看護職員が不在の時間帯は、協力医療機関が受け皿になります。運営基準では、協力医療機関の要件として「入所者の病状が急変した場合等において医師又は看護職員が相談対応を行う体制を、常時確保していること」が挙げられています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。つまり夜間や休日に相談できる先があることは、施設が個別に頑張って確保する努力目標ではなく、基準上の要件として位置づけられています。自施設の緊急連絡網に夜間の相談先が明記されているかは、この観点で確認できます。
救急隊が来るまでの約10分に整えておく情報
救急要請をしてから救急隊が到着するまでの平均は約10.0分です。この時間は「待つ時間」ではなく、搬送先での処置を早めるための情報を整える時間として使えます。
| 時間帯 | やること | 主な担当 | 記録に残す項目 |
|---|---|---|---|
| 発見直後(0〜1分) | 安全確保、反応と呼吸の確認、応援要請 | 発見者 | 発見時刻、発見時の状況、呼びかけへの反応 |
| 〜3分 | 医療職または協力医療機関へ連絡、救急要請の判断 | 発見者+応援者 | 連絡した相手と時刻、指示の内容 |
| 〜10分(救急隊到着まで) | バイタル測定、既往歴・服薬情報・かかりつけ医の準備、家族連絡、救急隊の誘導 | 応援者 | 測定値と測定時刻、家族への連絡時刻と伝えた内容 |
| 到着後 | 救急隊への申し送り、同行者の決定、施設内への共有 | 管理者・リーダー | 搬送先、同行者、引き継いだ情報 |
データ出典: 総務省消防庁「令和6年版消防白書」(令和5年中)および厚生労働省令(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)を基に作成
救急隊に渡す情報として優先度が高いのは、発見時刻・普段の状態・今日の変化・服薬内容・かかりつけ医の5点です。これらを1枚にまとめた個人票を事前に用意しておけば、その場での聞き取りが不要になります。
家族への連絡は「事実・時刻・現在の状態」を先に伝える
家族への連絡では、起きた事実、発生または発見の時刻、現在の状態、これから搬送するかどうかを先に伝えます。原因の説明や施設側の見解は、状況が確定してから改めて伝えるほうが行き違いが起きません。
施設系では、サービスの提供により事故が発生した場合、速やかに市町村と入所者の家族等へ連絡することが運営基準で定められています(指定介護老人福祉施設の運営基準、2026年8月時点)。家族連絡は配慮ではなく、市町村への報告と並ぶ義務として設計されています。手順書の良し悪しは項目の多さではなく、発見から救急隊到着までの約10分でひととおり回せる粒度になっているかで判断できます。
救急車を呼ぶかどうかの判断基準
迷った時点でつなぐ先を段階で示した判断フロー。♯7119の実施は全国41地域(出所: 総務省消防庁に基づき編集部作成)
救急車を呼ぶかどうかは、個人が抱え込む判断ではなく、迷った時点で相談先につなぐルールとして設計します。意識・呼吸・出血に明らかな異常があれば迷わず119番、そこまでではないが普段と違う場合は医療職または公的な相談窓口に確認する、という二段構えが基本形です。判断の根拠は「基準値からの逸脱」だけでなく「普段との差」にも置きます。
ためらわずに119番する状態
次のような状態は、医療職への相談を待たずに119番通報を優先する場面として、施設の手順書に書き込んでおく対象です。
- 呼びかけへの反応がない、または極端に鈍い
- 呼吸がない、極端に浅い、ゼーゼーと苦しそうな音が続く
- けいれんが続いている、けいれん後に意識が戻らない
- 頭を強く打った、打った可能性がある(抗凝固薬を服用している場合は特に注意)
- 止血できない出血がある
- 食物や異物が詰まり、咳ができない
これらは緊急度の目安であり、医学的な確定診断を示すものではありません。実際の対応は、看護職員や協力医療機関の医師の指示に従い、判断に迷う場合は医療職へ相談してください。
判断に迷ったときに使える公的な相談先とツール
相談先を施設内の医療職だけに置くと、夜勤帯や訪問系では判断が結局その場の職員に戻ってきます。国が用意している公的な窓口とツールを、施設の判断フローにあらかじめ書き込んでおくと、この空白を埋められます。
| 迷う場面 | つなぐ先 | 内容 |
|---|---|---|
| 明らかな異常がある | 119番 | 救急要請。判断を待たずに通報する |
| 普段と違うが緊急かどうか分からない | 施設内の看護職員 | 状態を事実ベースで報告し指示を受ける |
| 夜間・休日で看護職員が不在 | 協力医療機関 | 医師または看護職員による常時の相談対応(運営基準が求める体制) |
| 相談先につながらない・判断の後押しがほしい | 救急安心センター事業(♯7119) | 医師・看護師・救急救命士に電話で相談できる。緊急性が高ければ119番へ転送される |
| 症状から緊急度の目安を確認したい | 全国版救急受診アプリ「Q助」 | 症状を選ぶと緊急度に応じた対応が表示される |
データ出典: 総務省消防庁および厚生労働省令(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)を基に作成
公的な相談窓口とツールを手順書に書き込む
♯7119は、急な病気やケガで「救急車を呼んだほうがいいのか」と判断に迷った際の相談窓口で、医師・看護師・救急救命士から電話でアドバイスを受けられる仕組みです。緊急性が高いと判断された場合は119番通報への転送も行われます。ただし全国一律ではなく、実施は全国41地域にとどまります(総務省消防庁、2026年8月時点)。自施設の所在地域が対象かどうかは、事前に確認して手順書に書き分けておく必要があります。
「Q助」は緊急度判定プロトコルver.2(家庭自己判断)をもとに作られたもので、症状を画面で選ぶと「今すぐ救急車を呼びましょう」から「引き続き、注意して様子をみてください」までの区分が表示されます(総務省消防庁、2026年8月時点)。家庭での自己判断を支援するツールであるため、医療職の判断に置き換えるものではありません。夜勤で判断材料が足りないときの補助として位置づけるのが実態に合った使い方です。
観察項目は「いつもとの差」で見る
救急要請の判断材料として測るのは、体温、脈拍、血圧、呼吸数、血中酸素飽和度、意識の状態です。ここで見落としやすいのが、基準値の範囲内でも普段の値から大きく離れているケースです。普段の血圧が高めの利用者が急に下がった場合、数値だけを見れば正常でも、その人にとっては大きな変化にあたります。
そのため、記録に残すのは測定値そのものだけでなく、測定時刻と「普段の値」との対比です。測定値の読み方はバイタルチェックの基本を解説した記事、年代別の基準値は高齢者バイタル正常値の記事が参考になります。救急要請の判断は個人の度胸ではなく、迷った時点でつなぐ先が手順書に書かれているかどうかで安定します。
救急車を呼ぶ判断基準を施設の共通ルールとして定着させたい方は
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場面別に変わる初動の勘所
場面が変わっても、安全確保・反応の確認・応援要請という最初の3動作は共通です。変わるのは、そのあとに何を観察するかと、何をしてはいけないかの2点だけです。手順書を「共通の3動作」と「場面別の観察項目」の2層に分けて作ると、現場で思い出しやすくなります。
転倒・転落を発見したとき
倒れている利用者を見つけても、すぐに起こしません。骨折や頭部外傷がある場合、動かすことで状態が悪化する可能性があるためです。まず反応と呼吸を確認し、頭を打った可能性、出血、手足の変形や左右差、痛みの訴えを観察します。
発見時刻と発見時の姿勢は、あとから再現できない情報なので最優先で記録します。転倒の瞬間を見ていない場合は、「発見時に床に座り込んでいた」のように、見た事実だけを書きます。転倒の予防や環境整備は、事故が起きたあとの初動とは別のテーマとして施設全体で扱う領域です。
発熱・意識の変化があるとき
発熱そのものよりも、意識の状態と併発している症状を見ます。呼びかけへの反応、会話のかみ合い方、顔色、手足の動きに左右差がないかを確認します。高齢者は発熱がなくても感染症が進行することがあるため、体温だけで緊急度を決めない設計にしておきます。
水分がとれているか、いつから様子が違うのかも、医療職や救急隊が判断するうえでの材料になります。前日の申し送りや記録をさかのぼれる状態にしておくと、「いつから」の再現が早くなります。
嘔吐・誤嚥が疑われるとき
嘔吐を発見したら、吐いたものが気道に入らないよう、顔を横に向けます。咳ができている間は気道が完全にはふさがっていない状態です。咳ができない、声が出ない、顔色が急速に変わるといった場合は窒息を疑い、直ちに119番へ通報します。
吐いたものの色・量・においは、原因を推測する材料になるため、片付ける前に記録または撮影しておきます。処理の際は使い捨て手袋とマスクを使用し、素手では触れません。
入浴中・誤薬に気づいたとき
入浴中の急変では、まず浴槽から安全に引き上げ、体を冷やさないようにしたうえで反応と呼吸を確認します。1名で引き上げられない場合は、顔を水面より上に保つことを優先しながら応援を呼びます。
誤薬に気づいた場合は、誰が・いつ・どの薬を・どれだけ服用したかを最優先で特定し、薬剤の情報を持ったうえで看護職員または協力医療機関へ連絡します。自己判断で吐かせる対応は行いません。誤薬が起きにくいしくみのつくり方は介護施設の誤薬対策の記事にまとめました。
緊急時にやってはいけない対応
やってはいけない対応は3つに絞られます。職員の判断で薬を飲ませること、むやみに体を動かすこと、血液や吐物に素手で触れることです。いずれも、良かれと思った行動が状態の悪化や二次被害につながる場面です。
- 職員の判断で服薬させる: 解熱剤や痛み止めを独断で使うと、症状が隠れて医師の判断を誤らせることがあります。医療職の指示を受けてから対応します
- 体を起こす、揺さぶる、頭を動かす: 骨折や頭部外傷、頸椎の損傷がある場合、動かすことで悪化する可能性があります。移動が必要な場合も、必要最小限にとどめます
- 素手で吐物や血液に触れる: 感染のリスクがあります。使い捨て手袋・マスク・エプロンを、居室からすぐ取り出せる場所に配置しておきます
加えて、記録を後回しにして記憶に頼ることも避けたい対応です。時刻の精度は時間が経つほど落ちるため、対応の合間にメモを残せる運用にしておきます。
対応後の記録と市町村への事故報告
報告対象2類型と第1報5日以内の期限の関係を整理(出所: 厚生労働省「介護保険最新情報Vol.943」に基づき編集部作成)
対応後は、事故の状況と採った処置を記録し、一定の事故については市町村へ報告します。国の通知では、報告対象は「死亡に至った事故」と「医師の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故」の2つで、原則としてすべて報告するとされています。第1報は事故発生後速やかに、遅くとも5日以内が目安です(厚生労働省 介護保険最新情報Vol.943、令和3年3月19日通知)。
記録は時系列・事実・実測値で残す
運営基準では、事故の状況および事故に際して採った処置について記録することが求められています(指定介護老人福祉施設の運営基準、2026年8月時点)。記録は任意の申し送りメモではなく、基準上の要求として位置づけられています。
書き方の原則は3つです。時系列で並べること、推測と事実を分けること、数値は実測値を書くことです。「ぐったりしていた」ではなく「呼びかけに開眼あり、返答なし。体温38.4度(14時20分測定)」と書けば、読んだ人が同じ状態を思い浮かべられます。事故報告書の書式や場面別の文例は、ヒヤリハット事例集と報告書の書き方の記事で詳しく扱っています。
市町村へ報告する事故の範囲と期限
報告対象と期限を整理すると次のとおりです。
| 項目 | 国の通知が示す内容 |
|---|---|
| 原則として全て報告する事故 | 死亡に至った事故/医師(施設の勤務医、配置医を含む)の診断を受け投薬、処置等何らかの治療が必要となった事故 |
| その他の事故 | 各自治体の取扱いによる |
| 使用する様式 | 可能な限り国の別紙様式を使用。独自様式を使う場合も別紙様式の項目を含める |
| 第1報の期限 | 様式の1から6の項目を可能な限り記載し、事故発生後速やかに、遅くとも5日以内が目安 |
| 続報 | 状況の変化に応じて追加報告。原因分析や再発防止策は作成次第報告 |
| 提出方法 | 電子メールによる提出が望ましい |
データ出典: 厚生労働省「介護保険施設等における事故の報告様式等について」(介護保険最新情報Vol.943、令和3年3月19日)を基に作成
この通知は、報告様式が市町村ごとにばらついていたことを踏まえ、報告の標準化による情報の蓄積と活用に資する観点から出されたものです。したがって、報告するかどうかを施設の裁量で決める範囲は、上記2類型の外側だけということになります。その他の事故の扱いは自治体ごとに異なるため、所管市町村の要領を確認してください。
自施設の様式は標準様式の項目で点検する
国は独自様式の使用そのものを禁じていません。求めているのは、独自様式であっても別紙様式の項目を含めることです。点検の軸になるのは、様式の名称や体裁ではなく、項目が揃っているかどうかです。
具体的には、発生日時・発生場所・利用者の基本情報・事故の種別と状況・発生時の対応・その後の経過という基本項目が、第1報の時点で埋められる構成になっているかを確認します。記録が運営指導でどう見られるかは、実地指導(運営指導)チェックリストの記事もあわせて確認してください。事故報告は施設ごとの慣習ではなく、国が示した報告対象と5日以内という期限を基準に運用を組み直せます。
施設の緊急時対応マニュアルと研修の整え方
緊急時対応マニュアルは、作ってあるかどうかではなく、年1回以上見直され、その内容が全職員に届いているかどうかが問われます。運営基準は対応方法の策定に加えて一年に一回以上の見直しを求めており(指定介護老人福祉施設の運営基準、2026年8月時点)、更新されていないマニュアルは基準を満たしたことになりません。
マニュアルに欠かせない4つの要素
運営基準の要求事項と国の事故報告通知を踏まえると、緊急時対応マニュアルに欠かせない要素は4つに整理できます。
| 要素 | 具体的に書く内容 |
|---|---|
| 1. 連絡順序と担当 | 日勤帯・夜勤帯・休日それぞれの連絡先と順序。1名夜勤時に誰へ連絡するかを明記する |
| 2. 協力医療機関の体制 | 常時の相談対応・診療・入院受け入れの窓口と連絡方法(運営基準が求める体制に対応) |
| 3. 観察と記録の項目 | 場面別に観察する項目、測定するバイタル、記録に残す時刻と実測値 |
| 4. 報告の対象と期限 | 市町村への報告対象2類型と第1報5日以内の目安、使用する様式 |
データ出典: 厚生労働省令(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準)および厚生労働省「介護保険最新情報Vol.943」を基に作成
なお、協力医療機関の要件には経過措置が設けられています(指定介護老人福祉施設の運営基準 附則、2026年8月時点)。適用の時期は施設種別や指定権者によって扱いが異なるため、自施設の状況は都道府県・指定都市・中核市の担当課へ確認してください。
年1回以上の見直しを回す進め方
見直しの機会は、あらかじめ年間計画に組み込んでおくと動きます。実務では、次の3つのタイミングが更新のきっかけになります。
- 協力医療機関との年1回以上の対応確認(運営基準が求める届出とあわせて実施する)
- 実際に発生した事故・ヒヤリハットの振り返り(連絡が遅れた、記録が抜けたなどの詰まりを反映する)
- 制度改正や自治体の要領変更(報告様式・報告先の変更を反映する)
見直しで変えた箇所は、変更点だけを抜き出して周知するほうが伝わります。全文を配り直すと、どこが変わったのかが埋もれてしまうためです。
研修は「読む」より「同じ場面を見る」で揃える
緊急時対応は、文章で読んで理解できていても、その場で体が動かなければ結果につながりません。手順書の配布に加えて、実際の場面を想定した訓練や動画で「同じ場面を同じ手順で見る」機会をつくると、職員間の動きが揃いやすくなります。
ここで課題になるのが、届く範囲です。集合研修は日程が合う職員にしか届かず、夜勤中心の職員、非常勤、外国人職員には後追いの説明が必要になります。研修の年間計画の立て方は介護施設の法定研修の記事で扱っています。マニュアルの評価軸は作成の有無ではなく、年1回以上の更新と、その更新が全職員に届いたと確認できるかどうかに置けます。
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介護の緊急時対応でよくある質問
夜勤で職員が1人のとき、急変が起きたらどう動けばよいですか?
その場を離れずに応援を呼ぶ原則は変わりませんが、館内に応援がいない前提で連絡先を決めておく必要があります。オンコール担当、協力医療機関の夜間相談窓口、系列施設の当直など、実際につながる順番を勤務表と同じ粒度で手順書に書いておきます。運営基準は協力医療機関に常時の相談対応体制を求めているため、夜間の相談先を空欄にしたままの連絡網は要件を満たしていない状態にあたります。
救急車を呼ぶか迷ったとき、どこに相談すればよいですか?
まず施設内の看護職員、不在であれば協力医療機関へ相談します。いずれにもつながらない場合の受け皿として、救急安心センター事業(♯7119)があり、医師・看護師・救急救命士に電話で相談できます。実施は全国41地域のため、自施設の地域が対象かどうかを事前に確認しておいてください。意識・呼吸・出血に明らかな異常がある場合は、相談を挟まず119番を優先します。
軽いすり傷など、市町村へ報告しない事故はどう扱えばよいですか?
国の通知が原則すべて報告としているのは、死亡に至った事故と、医師の診断を受け投薬・処置等の治療が必要となった事故の2類型です。それ以外の事故の報告は各自治体の取扱いによるため、所管市町村の要領を確認してください。報告対象外であっても、施設内の記録とヒヤリハットとしての共有は行い、再発防止の検討材料として残します。
緊急時対応の研修は、どんな内容で組み立てればよいですか?
手順の暗記ではなく、判断が詰まる場面を扱うと定着しやすくなります。「夜勤1名で転倒を発見した」「入浴中に反応が鈍くなった」といった場面を設定し、誰にどう連絡し、何を記録するかまでを通しで確認します。あわせて、直近1年に自施設で起きた事故の振り返りを教材にすると、手順書のどこが機能しなかったかが具体的に見えます。
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緊急時対応の質は、手順書の完成度だけでなく、その手順が全職員に同じ内容で届いているかに左右されます。運営基準が年1回以上の見直しを求めている以上、更新のたびに周知が必要になり、紙の配布と集合研修だけでは夜勤中心の職員や非常勤への到達が遅れます。教育手段を比べる際の軸は「同じ内容が全員に届いたと確認できるか」に置けます。到達を確認する手段がない運用では、更新したこと自体が現場に反映されたかどうかを検証できません。
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ただし、ICTは導入しただけで運用が変わるものではなく、連絡順序と記録項目を決める作業は施設側で行う必要があります。手順書の更新を全職員に届ける手段が現状あるかどうかを確認し、そのうえで手段を選ぶ順序で検討すると、導入後のずれが起きにくくなります。申し送りと情報共有の設計は介護の申し送りのコツの記事と介護施設の情報共有を効率化する方法の記事でも取り上げています。
まとめ
手順・判断基準・記録の3点が施設のルールとして揃うと、現場の景色が変わります。夜勤で1人の職員が急変に遭遇しても、連絡先が決まっているので迷わずに動けます。救急隊が到着したときには必要な情報が手元に揃い、翌日には報告書が期限内に仕上がっています。まずは自施設の手順書を、発見から救急隊到着までの約10分の時間軸に置き直して点検するところから始めてください。事故対応を含めた安全管理の全体像は介護のリスクマネジメントの記事で整理しています。
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