2026.8.21

介護施設のコスト削減12の打ち手|費目別の優先順位とICT活用

介護施設のコスト削減は、人数を減らすことではなく、記録や申し送りといった間接業務の時間を減らすところから始まります。施設サービスは収入に対する給与費の割合が6割を超えており(厚生労働省 令和7年度介護事業経営概況調査、2026年8月時点)、細かな節約の積み上げでは支出構造に届きません。費目別12の打ち手と着手の順番を整理します。

介護施設のコストはどこから削るべきか

左上ほど金額が大きく、左下ほど着手は容易だが動く金額は小さい(出所: 厚生労働省 令和7年度介護事業経営概況調査に基づき編集部作成)

介護施設のコスト削減は、支出に占める比率が大きい費目から着手順を決めるのが基本になります。厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査によると、施設サービスでは収入に対する給与費の割合が介護老人福祉施設で63.5%、介護老人保健施設で64.3%を占めており(令和6年度決算、2026年8月時点)、削減の効き方は費目ごとに大きく異なります。

支出の6割超を占めるのは給与費

厚生労働省の令和7年度介護事業経営概況調査は、令和5年度決算と令和6年度決算を対象に、8,099施設・事業所から有効回答を得た統計です。この調査によると、収入に対する給与費の割合は令和6年度決算で介護老人福祉施設63.5%、介護老人保健施設64.3%、介護医療院60.4%でした(厚生労働省 令和7年度介護事業経営概況調査 結果の概要、2026年8月時点)。

施設が使うお金の3分の2近くが人に関する費用である以上、水道光熱費や消耗品費を切り詰めても動かせる金額は支出全体の一部にとどまります。比較軸を「支出に占める比率」に置くと、光熱費を10%下げるより給与費を1%下げるほうが金額としては大きくなる計算です。着手の起点になるのは、節約できそうな費目を探すことではなく、自施設の支出のうち給与費が何割を占めているかを決算書で確認することです。

収支差率と赤字施設の割合から見る削減余地

同じ調査では、全サービス平均の収支差率は令和5年度決算・令和6年度決算とも4.7%でした。赤字事業所の割合は全サービスで37.5%、施設サービスに限ると44.8%です(同調査、令和6年度決算、2026年8月時点)。

この数字が示すのは、施設サービスの収支が構造的に薄いということです。収支差率が数%の水準にある以上、支出を1%下げられれば収支差率への影響は決して小さくありません。同時に、赤字と黒字が拮抗している状況では、削減の失敗が経営に跳ね返る幅も大きくなります。削減額の目標を「いくら削るか」ではなく「収支差率を何ポイント動かすか」で置くと、施策の優先順位を判断しやすくなります。

削減額と着手難易度の2軸で費目を並べ替える

費目を並べ替えるときは、金額の大きさだけでなく、着手のしやすさ・効果が出るまでの期間・ケアの質への影響を合わせて見ます。次の表は、厚生労働省の経営概況調査(費目の比率)とICT導入支援事業の効果報告(間接業務時間・保管スペース)を突き合わせて、費目ごとの特性を整理したものです。

費目 支出に占める比率の目安 着手の難易度 効果が出るまでの期間 ケアの質への影響
給与費(間接業務の時間) 6割超 中(運用設計が必要) 3〜6か月 直接ケアの時間が増える方向
給与費(人員数) 6割超 高(人員配置基準の制約) - 低下リスクが大きい
委託費・賃借料 中 中(契約更新時期に依存) 6か月〜1年 ほぼなし
水道光熱費 小〜中 低(設備更新は中) 1か月〜1年 ほぼなし
食材費 小〜中 中(献立と発注の連動) 1〜3か月 満足度に直結するため要注意
消耗品費・印刷費 小 低 1か月 ほぼなし
採用費 小(離職率に連動) 高(定着施策が前提) 1年以上 定着すれば向上する方向

データ出典: 厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」および厚生労働省「ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告」を基に作成(2026年8月時点。効果が出るまでの期間は費目の性質から整理した目安)。

表の上にある費目ほど動く金額が大きく、下にある費目ほど着手は容易です。着手しやすい費目から手を付けると、動く金額が小さいまま労力だけがかかります。

人件費を減らさずに人件費を下げる3つの打ち手

人件費は人数ではなく、記録・申し送り・教育にかかる間接業務の時間から削ります。厚生労働省のICT導入支援事業の効果報告では、ICT導入で削減した間接時間の使い道として「職員の残業時間の削減」を挙げた事業所が導入1年目で39.8%、2年目で45.9%にのぼりました(厚生労働省 ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告、2026年8月時点)。

この報告は、令和3年度に補助を受けた5,371事業所を対象にしたものです。同じ調査では、間接業務時間が「増えた」と答えた事業所も5.0%含まれています。データ上は、機器を入れれば自動的に人件費が下がるのではなく、浮いた時間を残業削減に振り向けるという判断を伴って初めて金額になることを示しています。効率化の効果を「時間が浮いた」で終わらせず、削れた時間を残業とシフトのどちらに反映するかを導入前に決めておく必要があります。

1. 介護記録を電子化して転記と二重入力をなくす

紙の記録は、その場でメモした内容を後から所定の様式へ書き写す作業が発生します。同じ内容を介護記録・ケース記録・申し送りノートへ三重に書くと、その分だけ勤務時間が埋まります。

厚生労働省の効果報告では、ICTを導入した事業所の81.9%が「文書作成の時間が短くなった」、84.8%が「入力済みの情報を他の文書でも利用できるようになった」と回答しました(同報告、令和3年度、2026年8月時点)。転記そのものが消える点が、作成速度の向上とは別の効果として現れています。

記録ソフトを比べるときは、入力画面の使いやすさだけでなく、一度入力した内容が別の帳票へそのまま反映されるかが判断材料になります。詳しい要件と進め方は介護記録の電子化とは|メリット・費用・法的要件で整理しています。

削減できる費目は給与費(残業手当)、着手の難易度は中、効果が出るまでの期間は3〜6か月、ケアの質への影響は直接ケアの時間が増える方向です。

2. 申し送り・情報共有をデジタル化して重複連絡を減らす

申し送りは、口頭・ノート・連絡簿と経路が分かれるほど、同じ内容を複数回伝える時間が発生します。夜勤帯と日勤帯の引き継ぎでは、伝え漏れを防ぐために口頭と書面を二重で行う運用もあります。

厚生労働省の効果報告では、90.3%が「情報共有がしやすくなった」、88.0%が「事業所内の情報共有が円滑になった(話し合い時間の増等)」と回答しています(同報告、令和3年度、2026年8月時点)。回答率だけを見ると、この項目は全13項目のなかで最も高い水準にあります。

記録の電子化と申し送りのデジタル化を別々に進めるより、記録した内容がそのまま申し送りに反映される形にできるかを確認したほうが、重複入力が残りません。進め方の詳細は申し送りの電子化とは?メリット・費用・進め方にまとめています。

削減できる費目は給与費(申し送り時間・残業手当)、着手の難易度は低、効果が出るまでの期間は1〜3か月、ケアの質への影響は伝達漏れが減る方向です。

3. 研修・教育を動画化してOJT時間と外部研修費を抑える

新人研修や法定研修を集合形式で実施すると、受講者だけでなく講師役の職員の勤務時間も研修に充てられます。シフトを調整して全員に同じ内容を届けるには、同じ研修を複数回開催することになります。

研修を動画にすると、1回の収録で全員が同じ内容を受講でき、開催回数に応じて増えていた講師役の時間が固定化されます。外部講師を招く回数や、受講のための交通費・出張旅費も見直しの対象になります。教材の作り方と法定研修への対応は介護の研修動画とは?メリットと法定研修対応で解説しています。

削減できる費目は研修費と給与費(指導時間)、着手の難易度は中、効果が出るまでの期間は6か月〜1年、ケアの質への影響は教え方のばらつきが減る方向です。

間接業務の時間は、削った分をどこに振り向けるかを決めて初めて金額になります。

ペーパーレス化で減るのは印刷費だけではない3つの打ち手

効果が現れるのは紙代ではなく作成時間・整理時間・保管スペースの側(出所: 厚生労働省 ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告に基づき編集部作成)

ペーパーレス化で減るのは印刷費だけでなく、書類の作成時間・整理時間・保管スペースの3つです。厚生労働省のICT導入支援事業の効果報告では、「ファイリングの時間が減った」が75.3%、「保存のために必要な場所が減少した」が72.7%、「過去の文書(データ)の検索性が向上した」が72.4%でした(厚生労働省 ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告、2026年8月時点)。

効果の内容 回答率
情報共有がしやすくなった 90.3%
事業所内の情報共有が円滑になった 88.0%
入力済みの情報を他の文書でも利用できるようになった 84.8%
文書作成の時間が短くなった 81.9%
ファイリングの時間が減った 75.3%
保存のために必要な場所が減少した 72.7%
過去の文書(データ)の検索性が向上した 72.4%
全体の業務量が減った 68.5%

データ出典: 厚生労働省「ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告取りまとめ」(令和3年度に補助を受けた5,371事業所が対象、2026年8月時点)を基に作成。

4. 帳票の印刷・コピー費を削る

印刷にかかる費用は用紙代だけではありません。複合機のカウンター料金、トナー代、保守契約料、そして印刷・仕分け・配布にかかる勤務時間が積み上がります。月次の帳票を全職員へ紙で配っている施設では、部数と回数の掛け算で費用が決まります。

削減の起点は、いま印刷している帳票を種類ごとに数え、配布先と保存年限を確認することです。閲覧しかしていない帳票は画面表示に置き換えられます。行政や医療機関とのやり取りが紙で残る帳票については、電子と紙の二重管理にならないよう、帳票ごとにどちらを正本とするかを先に決めておきます。

削減できる費目は消耗品費・賃借料(複合機)、着手の難易度は低、効果が出るまでの期間は1か月、ケアの質への影響はほぼありません。

5. 書類の保管スペースと文書保存の負担を圧縮する

介護記録や請求関連の書類には保存年限があり、年限が過ぎるまで施設内で保管し続けることになります。書庫やキャビネットが占める面積は、賃借料や有効活用できたはずのスペースという形でコストになります。

厚生労働省の効果報告で「保存のために必要な場所が減少した」が72.7%、「ファイリングの時間が減った」が75.3%という水準に達していることは、電子保存の効果が紙代よりも保管と整理の側に大きく現れていることを示しています(同報告、令和3年度、2026年8月時点)。ペーパーレス化の効果は印刷費だけで試算せず、保管スペースとファイリング時間を含めて見積もります。

削減できる費目は賃借料・給与費(整理時間)、着手の難易度は中、効果が出るまでの期間は6か月〜1年、ケアの質への影響は書類の探索時間が減る方向です。

6. 請求業務の返戻・再提出による損失を防ぐ

請求の返戻や過誤が発生すると、原因の特定・修正・再提出という往復が生まれます。事務時間が余分にかかるだけでなく、入金が翌月以降にずれ込むため資金繰りにも影響します。記録と請求データが分かれている施設では、この往復が起きやすくなります。

厚生労働省は、居宅介護支援事業所と介護サービス提供事業所・医療機関等の間のデータ連携標準仕様を通知として整備し、ケアプランデータ連携システムの導入にあわせた業務フローの見直し方をポイント集として公開しています(厚生労働省 介護テクノロジーの利用促進、2026年8月時点)。事業所間のやり取りを紙とFAXから標準仕様のデータ連携へ移す方向は、国の施策として整備が進んでいます。記録の電子化を検討する際は、その記録が請求データへどうつながるかまで含めて確認します。

削減できる費目は給与費(事務時間)と機会損失、着手の難易度は中、効果が出るまでの期間は3〜6か月、ケアの質への影響はほぼありません。

水道光熱費・食材費・消耗品費の4つの打ち手

水道光熱費・食材費・消耗品費は、設備の更新と発注ルールの見直しという2方向で下げられます。金額規模は給与費に比べると小さいものの、着手の難易度が低く、削減した状態がそのまま翌年度以降も続く点が特徴です。ここでの削減率は施設の設備・立地・契約条件で大きく変わるため、一律の数値目標ではなく自施設での試算が前提になります。

7. 照明のLED化と空調運用を見直す

照明のLED化は、更新費用が先に発生し、電気代の差額で回収していく形になります。判断に必要なのは削減率のうたい文句ではなく、自施設の設置灯数・点灯時間・現在の電気単価から算出した年間削減額と、更新費用を割った回収年数です。

空調は、設定温度のルール化とフィルター清掃の周期化という運用面の見直しが先に来ます。共用部と居室で管理の考え方を分け、居室側は利用者の体調を優先する前提を明示しておくと、現場での判断が揺れません。

削減できる費目は水道光熱費、着手の難易度は低(設備更新は中)、効果が出るまでの期間は1か月〜1年、ケアの質への影響はほぼありません。

8. 電力・ガスの契約と料金プランを見直す

電力・ガスは、契約種別と基本料金の算定根拠が施設の使用実態と合っていないことがあります。デマンド値(最大需要電力)が過去のピークのまま据え置かれていると、実際の使用量より高い基本料金を払い続けることになります。

見直しの手順は、直近12か月分の検針票を並べて使用量とピークの推移を確認し、複数社から同条件で見積もりを取ることです。切り替え時は解約金や契約期間の縛りも確認します。

削減できる費目は水道光熱費、着手の難易度は低、効果が出るまでの期間は1〜3か月、ケアの質への影響はほぼありません。

9. 食材ロスと発注ロットを見直す

食材費は、献立と発注のずれがそのままロスになります。喫食数の変動が読めないまま固定量を発注していると、廃棄が常態化します。

削減の起点は、残食量と廃棄量を1〜2週間記録し、メニュー別・曜日別のばらつきを見ることです。そのうえで発注ロットを刻めるか、代替食材で単価を下げられるかを検討します。ただし食事は利用者の満足度に直結するため、量と質を落とす方向の削減は選択肢から外します。

削減できる費目は食材費、着手の難易度は中、効果が出るまでの期間は1〜3か月、ケアの質への影響は進め方によって大きく変わるため要注意です。

10. おむつ・衛生材料をアセスメント基準で適正化する

おむつは、サイズや吸収量が実際の排泄量と合っていないと、必要以上に高い単価の製品を使い続けることになります。逆に、合わないものを使うと交換回数と洗濯量が増え、職員の手間が増えます。

排泄記録をもとに1人ひとりの排泄量と時間帯を把握し、その人に合った製品と交換タイミングを決める流れが基本です。記録がそろっていれば、製品選定と交換回数の両方を根拠のある形で見直せます。

削減できる費目は消耗品費・給与費(交換時間)、着手の難易度は中、効果が出るまでの期間は1〜3か月、ケアの質への影響は適正化されれば向上する方向です。

見落とされやすい固定費の2つの打ち手

委託費・通信費・採用費は、契約内容と離職率の見直しで下がる固定費です。毎月同じ金額が自動的に引き落とされるため、削減の対象として意識されにくい費目でもあります。一度下げれば翌年度以降も効果が続くため、契約更新の時期に合わせて着手すると手戻りが起きません。

11. 通信回線・端末・サブスクを洗い出す

通信費は、回線契約・携帯端末・クラウドサービスの利用料が別々の担当者の判断で積み上がっていることがあります。退職した職員の端末が解約されないまま残っていたり、使わなくなったサービスの月額が引き落とされ続けていたりする状態です。

洗い出しの方法は、直近12か月の請求明細を1枚にまとめ、契約名・月額・利用部署・最終利用日を並べることです。利用実態が確認できないものから解約を検討します。

削減できる費目は通信費・支払手数料、着手の難易度は低、効果が出るまでの期間は1〜3か月、ケアの質への影響はほぼありません。

12. 離職を減らして採用・教育の再投資を抑える

採用費は、求人広告費や紹介手数料として計上されますが、その発生量は離職率に連動します。1人が辞めるたびに、募集・選考・入職手続き・新人教育が繰り返され、教育を担当する職員の勤務時間も費やされます。採用単価を交渉するより、辞める人を減らすほうが継続的に効きます。

離職の要因は施設ごとに異なるため、退職理由の記録と勤続年数別の離職状況を確認するところから始まります。教育の仕組みが整っていない状態で新人が入ると、指導する職員の負担が増え、その職員の離職につながる連鎖も起こります。要因の分析と具体的な対策は介護職の離職防止|原因データと定着率を高める対策、人員確保の全体像は介護の人手不足の現状と原因|施設が今できる対策で扱っています。

削減できる費目は採用費・給与費(教育時間)、着手の難易度は高、効果が出るまでの期間は1年以上、ケアの質への影響は定着すれば向上する方向です。

ICTの導入費用はどこまで回収できるか

機器1種類でも加算(Ⅱ)に届く一方、算定の継続には委員会開催と年1回のデータ提供が必要(出所: 厚生労働省 令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について に基づき編集部作成)

ICTの導入費用は、介護報酬の加算と自治体の補助という2つの経路で一部を回収できます。令和6年度介護報酬改定では生産性向上推進体制加算(Ⅰ)100単位/月・(Ⅱ)10単位/月が新設され、見守り機器や介護記録ソフトなどの導入と業務改善の継続が報酬側で評価される仕組みになりました(厚生労働省 生産性向上推進体制加算について、2026年8月時点)。

生産性向上推進体制加算の単位数と要件

生産性向上推進体制加算は、短期入所系・居住系・多機能系・施設系サービスを対象に、令和6年度介護報酬改定で新設された加算です。要件は次のとおりです(同説明資料、2026年8月時点)。

区分 単位数 テクノロジーの導入要件 その他の主な要件
加算(Ⅰ) 100単位/月 見守り機器・インカム等・介護記録ソフト等の3種類すべて (Ⅱ)の要件に加え、提出データで業務改善の成果が確認されること、職員間の適切な役割分担の取組を行っていること
加算(Ⅱ) 10単位/月 見守り機器・インカム等・介護記録ソフト等のうち1つ以上 委員会の開催と安全対策、生産性向上ガイドラインに基づく改善活動の継続、1年以内ごとに1回の効果データ提供

データ出典: 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について(説明資料)」を基に作成(2026年8月時点)。

制度上は、介護記録ソフトの導入だけでも加算(Ⅱ)の機器要件を満たす設計になっています。加算(Ⅰ)は(Ⅱ)の要件を満たしたうえで提出データにより成果が確認されることが前提のため、まず(Ⅱ)から算定して(Ⅰ)へ移行する順序になります。ただし加算を算定する場合、委員会は3か月に1回以上の開催が必要で、議題には介護機器の定期的な点検と職員への研修が含まれます。導入して終わりではなく、運用を続ける前提の制度です。

機器の選定と同時に、委員会の開催体制と年1回のデータ提出を誰が担うかを決めておくことが、算定を続けるうえでの前提になります。取組の全体像は介護の生産性向上とは?7つの取組と進め方で解説しています。

人員配置基準の特例的な柔軟化という選択肢

令和6年度介護報酬改定では、加算とは別に人員配置基準の見直しも行われました。見守り機器等のテクノロジーの複数活用と職員間の適切な役割分担に先進的に取り組む特定施設について、介護サービスの質の確保と職員の負担軽減が確認されたうえで、人員配置基準が3対0.9へ特例的に柔軟化されます。介護老人保健施設等では、見守り機器等を100%以上導入するなど複数の要件を満たした場合に夜間の人員配置基準が緩和されます(厚生労働省 生産性向上推進体制加算について、2026年8月時点)。

比較軸を「人件費に手を付ける正規のルート」に置くと、人員を独自判断で減らす方法と、制度が定めた要件を満たして基準の適用を変える方法では、リスクの性質がまったく違います。前者は基準違反に直結しますが、後者は要件と確認手続きが明文化されています。

補助制度は年度ごとに条件が変わる

介護テクノロジーの導入経費については、都道府県を実施主体とする補助制度があります(厚生労働省 介護テクノロジーの利用促進、2026年8月時点)。補助率・上限額・対象機器・申請時期は年度と自治体によって変わるため、検討時点の最新の公募要領を所管窓口で確認してください。制度の種類と申請手順を確認するときは介護ソフトの補助金まとめ|種類・補助率・申請手順が参考になります。

導入費用は加算と補助で一部を回収できますが、いずれも運用を続けることが前提になっています。

コスト削減を4ステップで進める

着手前の課題分析を済ませた事業所が8割を超え、準備期間は「なし」と「1〜3か月」に二極化(出所: 厚生労働省 ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告に基づき編集部作成)

コスト削減は、現状把握・優先順位づけ・実行・検証の4ステップで進めます。厚生労働省のICT導入支援事業の効果報告では、導入にあたって83.2%が「課題分析をした上で導入計画を作成した」と回答しており、着手前の整理が実務の標準になっています(同報告、令和3年度、2026年8月時点)。

1. 費目別の実額を12か月分そろえる

最初に行うのは、直近12か月の費目別実額を1枚の表に並べることです。月次で変動する費目と一定額の費目を分けると、削減の当たりを付けやすくなります。決算書の科目区分だけでは粒度が粗いため、通信費や消耗品費は請求明細まで下ろして内訳を確認します。

このとき、金額と同時に「誰が契約・発注しているか」を記録します。担当者が分散している費目ほど、重複や解約漏れが残っています。

2. 削減額と着手難易度で優先順位をつける

次に、費目ごとの想定削減額と着手の難易度を掛け合わせて着手順を決めます。金額が大きくても人員配置基準に触れるものは対象外になり、金額が小さくても翌月から効くものは早期に着手する候補になります。

優先順位を決めた時点で、誰がいつまでに何をするかを表に落とします。担当と期限のない削減計画は、日常業務に押し流されて進みません。

3. 準備期間を織り込んで小さく始める

ICTの導入では、準備期間が「1か月〜3か月」と回答した事業所が27.2%、「なし」が30.9%でした(同報告、令和3年度、2026年8月時点)。分布が二極化しており、対象業務の広さと施設規模によって必要な期間が変わることを示しています。全フロア一斉導入ではなく1ユニットや1業務から始め、必要な準備期間を実測してから広げると、想定とのずれを小さくできます。

4. 効果を数字で確認し見直し周期を決める

最後に、打ち手ごとに測る指標と確認頻度を決めます。生産性向上推進体制加算では、総業務時間・超過勤務時間・年次有給休暇の取得状況などの変化を厚生労働省へ報告することになっており(同説明資料、2026年8月時点)、この項目はそのまま自施設の測定指標としても使えます。

打ち手の領域 測る指標 確認頻度
記録・申し送り・教育の効率化 超過勤務時間、記録に要した時間 月次
ペーパーレス化 印刷枚数、複合機カウンター料金、書庫の使用棚数 月次・半期
水道光熱費 使用量、デマンド値、単価 月次
食材費・消耗品費 廃棄量、1人1日あたり単価 月次
通信費・委託費 契約件数、月額合計 半期
採用費 離職率、採用単価 半期・年次

データ出典: 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について(説明資料)」の報告項目を基に、本記事の打ち手へ対応づけて作成(2026年8月時点)。

改善の具体的な進め方は介護の業務改善事例と効率化の手法・進め方もあわせて確認できます。

やってはいけないコスト削減

人員配置基準・安全確保・ケアの質に触れる削減は、制度上そもそも選択肢に入りません。介護保険サービスは指定基準を満たすことが事業継続の前提であり、基準を下回れば運営指導での指摘や報酬の返還につながります。削減候補は、制度上削れないもの・運用で削れるもの・購買条件で削れるものの3つに仕分けてから着手します。

仕分け 内容 扱い
制度上削れない 人員配置基準に基づく職員数、法定研修、記録の作成と保存、事故防止に必要な体制 削減対象から除外する
運用で削れる 間接業務の時間、重複した記録・連絡、印刷部数、空調・照明の運用ルール 優先的に着手する
購買条件で削れる 電力・通信の契約、消耗品の仕入条件、委託契約の内容 契約更新時期に合わせて見直す

データ出典: 厚生労働省の指定基準および令和6年度介護報酬改定の関連資料を基に作成(2026年8月時点)。

人員配置基準を下回る削減

人件費が支出の大半を占めるため、人員数に手を付けたくなる場面はあります。ただし介護保険サービスの人員配置基準は指定の要件であり、下回れば減算や指定の取消しの対象になります。夜勤帯の配置についても同様です。

人員に関わる見直しを行うなら、前述の人員配置基準の特例的な柔軟化のように、要件と確認手続きが明文化された制度の枠内で進めます。

安全・衛生に直結する備品の削減

手袋・消毒剤・失禁用品などの衛生材料や、転倒防止・移乗補助にかかわる用具は、単価が低いために削減対象になりやすい費目です。使用量を絞ると感染や事故のリスクが上がり、発生したときの損失は削減額を大きく上回ります。

これらは「使用量を減らす」のではなく「同等品で単価を下げる」「発注ロットを見直す」という購買条件側の見直しに限定します。

職員の処遇を下げる削減

賞与や手当の圧縮は短期的には支出を下げますが、離職につながれば採用費と教育コストとして戻ってきます。令和6年度決算で施設サービスの44.8%が赤字という状況では処遇の見直しが議題に上がりますが、採用費が離職率に連動する構造は変わりません。

一般には「質を落とさない範囲で削る」と言われますが、この表現では現場が線を引けません。削減候補が上表の3分類のどれに当たるかを先に確定させ、「制度上削れない」に入るものは金額の大小にかかわらず検討から外す、という順序で判断します。人員配置基準・法定研修・記録の作成と保存は指定基準に含まれる一方、間接業務の時間・書類の保管・情報共有の重複には、厚生労働省のICT導入支援事業の効果報告が示すとおり削減余地が数値で確認されています。

削減の可否は現場の我慢の度合いではなく、制度と契約のどちらで決まっている費目かで判断できます。

記録・申し送り・教育の一体化でコストを下げるなら CareBase(ケアベース)

ここまで見てきたとおり、金額として最も大きく動くのは間接業務の時間であり、その中身は記録・申し送り・教育の3つに集中します。評価軸を「この3つを1つの仕組みで扱えるか」に置くと、機能が分かれたツールを組み合わせる構成より、転記と再入力の往復が少なくなります。

CareBase(ケアベース)は、介護記録・申し送り・動画マニュアルによる教育をクラウドで一元化する介護施設向けのサービスです。記録した内容を申し送りへ引き継ぐ運用に対応し、動画マニュアルとアラート通知によって経験差があっても同じ手順で業務を進められる設計になっています。外国人スタッフ向けの多言語対応と、文字に頼らない視覚的なマニュアルにも対応しています。

導入を検討する際は、機能の多さではなく、自施設で最も時間がかかっている業務がその仕組みの中に収まるかを確認してください。個別の運用要件や料金は施設の規模・サービス種別によって変わるため、所管の窓口や提供元へ直接確認してください。

よくある質問

費目別の打ち手と進め方に関して、判断が分かれやすい論点を4つ整理します。

人件費を削減すると人員配置基準に違反しませんか

人員数を減らす形での削減は、指定基準を下回れば減算や指定取消しの対象になります。一方、記録や申し送りにかかる間接業務の時間を減らし、その分を残業時間の削減に振り向ける方法は、配置人数を変えずに給与費を下げる進め方です。基準そのものを変える場合は、令和6年度介護報酬改定で設けられた人員配置基準の特例的な柔軟化のように、要件と確認手続きが定められた制度の枠内で進めます(厚生労働省 生産性向上推進体制加算について、2026年8月時点)。

介護ソフトの導入費用はどのくらいの期間で回収できますか

回収期間は、削減できる残業時間・対象職員数・施設の人件費単価によって変わるため、一律の目安はありません。試算するときは、削減見込みの間接業務時間に人件費単価を掛けた年間削減額と、生産性向上推進体制加算(Ⅱ)10単位/月または(Ⅰ)100単位/月による収入増を合算し、導入費と月額費用の合計で割ります。加算の算定には委員会の開催や年1回のデータ提供が必要なため、その運用負荷も見込んでおきます。

コスト削減の効果はどうやって確認すればよいですか

打ち手ごとに指標と確認頻度をあらかじめ決めておきます。間接業務の効率化なら超過勤務時間、ペーパーレス化なら印刷枚数と複合機のカウンター料金、通信費なら契約件数と月額合計、というように、削減の対象と直接つながる数字を選びます。生産性向上推進体制加算では総業務時間・超過勤務時間・年次有給休暇の取得状況の変化を報告することになっており、この項目をそのまま自施設の指標として使えます(厚生労働省 生産性向上推進体制加算について、2026年8月時点)。

職員がコスト削減の取り組みに乗り気でないときはどうすればよいですか

削減の目的が人件費の圧縮だと受け取られると、協力は得にくくなります。厚生労働省のICT導入支援事業の効果報告では、削減した間接時間の使い道として「利用者とコミュニケーションする時間」が52.0%、「利用者の直接ケアの時間」が45.0%と、残業削減の39.8%を上回りました(同報告、令和3年度、2026年8月時点)。浮いた時間をどこに使うかを先に共有し、対象業務を1つに絞って始めると、効果が実感されやすくなります。

まとめ

介護施設のコスト削減は、支出の6割超を占める給与費に対して、人数ではなく間接業務の時間から着手するのが起点になります。記録・申し送り・教育の効率化とペーパーレス化で生まれた時間は、残業削減に振り向けて初めて金額になります。導入費用は令和6年度介護報酬改定で新設された加算と自治体の補助で一部を回収でき、削れる範囲は制度と契約であらかじめ決まっています。まずは直近12か月の費目別実額を1枚の表にそろえ、削減額と着手難易度で着手順を決めるところから始めてください。

介護ソフトの導入や見直しをご検討中の方は、まずは情報収集から始めてみませんか。
carebase(ケアベース)では、現場に定着する介護記録システムとして、多くの事業所でご活用いただいています。
費用や機能、導入事例について詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

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    介護業界では人材不足を背景に、外国人スタッフの採用が進んでいます。技能実習や特定技能などを通じて、多くの施設で外国人介護人材が活躍するようになりました。 一方で、施設管理者からは「...

  • 【外国人スタッフ受け入れ施設必見】介護マニュアルの多言語化で離職率を下げる方法|ベトナム語・ミャンマー語対応の実践手順
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    2026.3.27

    【外国人スタッフ受け入れ施設必見】介護マニュアルの多言語化で離職率を下げる方法|ベトナム語・ミャンマー語対応の実践手順

    近年、介護業界では人材不足を背景に、外国人職員の受け入れが急速に進んでいます。ベトナムやミャンマー、インドネシアなどから来日するスタッフは、現場にとって重要な戦力となっています。 ...

  • 【2026年最新版】介護向け研修動画システム徹底比較5選|機能・費用・操作性から見る失敗しない選び方
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    2026.3.26

    【2026年最新版】介護向け研修動画システム徹底比較5選|機能・費用・操作性から見る失敗しない選び方

    介護業界では慢性的な人材不足に加え、教育負担の増加が大きな課題となっています。特に現場では、OJTに依存した教育体制や口頭・紙ベースの研修が中心で、指導の質にばらつきが出やすい状況...

  • 【2026年法改正対応】介護スタッフ教育の完全ガイド|新人研修から継続教育まで体系的に解説
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    2026.1.26

    【2026年法改正対応】介護スタッフ教育の完全ガイド|新人研修から継続教育まで体系的に解説

    介護現場におけるスタッフ教育は、施設のサービス品質や安全性を左右する重要な要素です。しかし実際には、「新人研修の内容が人によって違う」「OJTが属人的になっている」「教育に十分な時...

  • 効率的な教育と均質化|介護・福祉現場における人材育成とオンライン研修の活用
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    2026.1.20

    効率的な教育と均質化|介護・福祉現場における人材育成とオンライン研修の活用

    人材不足が深刻化する介護・福祉業界では、「採用」だけでなく「育成」と「定着」が大きな課題となっています。 特に現場教育はOJTに頼りがちで、教える人やタイミングによって内容や質に差...

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    CareBase(ケアベース)の導入費用が素直に乗るのは、デジタル化・AI導入補助金です。月額利用料をクラウド利用料として最大2年分まで計上でき、締切は年に複数回あります。外国人職...

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    執筆者:柴田崇晴 CareBase(ケアベース)を助成金で導入|投資対効果と申請の実際

    助成金でCareBase(ケアベース)を導入できるのか、その投資は効果に見合うのか。施設管理者がまず確かめたいのは、この点ではないでしょうか。結論から言えば、CareBase(ケア...

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    2025.11.26

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    介護記録ソフトの導入を検討する施設管理者にとって、最も悩ましいのは「どのプランが自施設に合うか」という点です。 特に carebase(ケアベース)は、介護記録の効率化に加え、動画...

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    2025.10.22

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    介護記録・業務マニュアル・申し送りを一元化し、介護現場の生産性を高める ケアベース(carebase)。 「導入したいけど、費用が気になる…」 こうした悩みを持つ事業所は少なくあり...

  • 【2026年版】carebase(ケアベース)とは?全機能・料金プラン・導入事例を最新情報で徹底解説
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    2025.9.29

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    高齢化の進展に伴い、介護業界では 人手不足、業務の属人化、記録・引き継ぎのミス といった喫緊の課題が深刻化しています。紙・Excelでの記録運用では、転記ミスや情報の伝達漏れ、時間...

  • 【介護記録の効率化とデジタル化】ミスを防ぎ、現場を変える次世代ツールcarebase
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    2025.8.22

    【介護記録の効率化とデジタル化】ミスを防ぎ、現場を変える次世代ツールcarebase

    介護現場では、入居者ごとのバイタルデータ・食事摂取量・服薬情報・ADLの変化・ケアプランなど、日々膨大な量の情報が発生します。 こうした情報は介護記録としてまとめられ、次のシフトに...