2026.8.21
介護の転倒防止|原因別の対策と施設で仕組み化する手順
介護現場の転倒防止は、原因を本人側と環境側に切り分けたうえで、環境整備・身体機能・見守りの3方向で対策を組むのが基本です。厚生労働省の2025年調査では、骨折・転倒が要介護者の介護が必要となった原因の第2位(14.8%)にあたります。原因の見分け方から、施設で仕組みとして続ける手順までを整理します。
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転倒防止が介護現場の最優先課題になる理由
要介護者では骨折・転倒が認知症に次ぐ第2位へ上昇し、搬送された高齢者の約4割が中等症以上(出所: 厚生労働省 国民生活基礎調査の概況・東京消防庁に基づき編集部作成)
骨折・転倒は、要介護者が介護を必要とした主な原因のうち、認知症に次ぐ第2位を占めています。厚生労働省の2025年国民生活基礎調査では14.8%で、前回2022年調査の13.0%・第3位から順位と割合の両方が上がりました(厚生労働省、2026年8月時点)。
| 区分 | 2022年調査 | 2025年調査 |
|---|---|---|
| 総数 | 第3位 13.9% | 第3位 14.6% |
| 要支援者 | 第3位 16.1% | 第3位 14.7% |
| 要介護者 | 第3位 13.0% | 第2位 14.8% |
データ出典: 厚生労働省『2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況』表16、『2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況』表17(2026年8月時点)
データ上は、転倒防止は事故の件数を減らす取り組みであると同時に、要介護度が重くなるのを抑える取り組みとして位置づけられます。施設としては、成果を発生件数だけで測らず、利用者の生活機能がどれだけ保たれたかという軸も併せて見ておきたいところです。
転んだ高齢者の約4割が入院につながっている
転倒の重さは救急搬送のデータにも表れます。東京消防庁管内では、令和2年から令和6年までの5年間で、事故発生時の動作分類のうち「ころぶ」事故が全体の8割以上を占めました。令和6年には73,500人の高齢者が「ころぶ」事故で搬送され、うち約4割が入院の必要がある中等症以上と診断されています(東京消防庁、2026年8月時点)。
転倒は「軽く尻もちをついただけ」で終わらない割合が一定あります。対策は、転ばせないことに加えて、転んだあとに早期発見して対応する経路まで含めて設計します。
転倒の原因を内的要因と外的要因に切り分ける
場面を3つに分けたうえで原因が心身側か環境側かを判定すると打ち手が決まる(出所: 東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」の事故防止ポイントの整理に基づき編集部作成。内的要因・外的要因の区分も同資料に基づく)
転倒の原因は、本人の心身側にある内的要因と、生活環境側にある外的要因の2つに切り分けて把握します。両者は打ち手がまったく違うため、切り分けないまま対策を並べると、実際に起きているヒヤリハットに届かないまま手間だけが増えます。
| 区分 | 主な内容 | 対応する打ち手 |
|---|---|---|
| 内的要因 | 筋力・バランス機能の低下、視力や聴力の低下、認知症、疾患、服薬の影響 | 身体機能へのアプローチ、服薬内容の確認、個別のリスク把握 |
| 外的要因 | 段差、電源コード、照明の暗さ、床の滑りやすさ、合わない履物、ベッド周りの配置 | 環境整備、履物と福祉用具の見直し |
本人の心身にある内的要因
東京消防庁の資料でも、加齢に伴って心肺機能・筋力・視力や聴力といった身体能力が低下することが挙げられています。この変化は自覚されにくく、すり足や小さなふらつきとして現れてから気づかれることがあります。
認知症がある方では、危険を判断してから体を止めるまでの流れが働きにくくなります。睡眠薬や降圧薬などの服薬でふらつきが出る場合もあり、このときは環境をいくら整えても発生が減りません。前日まで安定して歩けていた方が翌朝には支えを必要とするなど、日によって状態が変わる点も特徴です。
だから内的要因への対応は、月1回の評価だけで完結させず、日々の記録に残った小さな変化を拾える形にしておくことが出発点になります。
生活環境にある外的要因
外的要因は、手を入れた結果が見えやすい部分です。東京消防庁は転倒防止のポイントとして、段差のある場所や階段・玄関への手すりと滑り止めの設置、電源コードが通路にかからないような電気製品の配置の工夫を挙げています。
施設では、居室からトイレまでの動線、浴室の出入り口、廊下の照明が主な点検箇所です。夜間は足元灯だけになる場所もあり、日中に問題のない動線でも見え方が変わります。床のワックスがけ直後や清掃で濡れている時間帯も危険度が上がります。
転倒が起こりやすい時間帯と場面
同じ利用者でも、転倒が集中する時間帯と場面があります。次の3つは、ふらつきと単独行動が重なりやすい条件が揃います。
| 場面 | 重なりやすい条件 |
|---|---|
| 起床直後・就寝前後 | 血圧の変動と覚醒の不十分さ、居室で一人になる時間 |
| 排泄のための移動 | 呼ばずに一人で動きやすい、急ぐ動作になりやすい |
| 車いすとベッドの間の移乗 | 立位が不安定な瞬間が生じる、介助待ちを避けようとする |
夜間は職員数が少なく、発見が遅れると転倒後に長時間そのままになるおそれもあります。傾向は施設ごとに異なるため、過去のヒヤリハットを「時間帯×場面」で並べ直すと、人員配置や巡回の順番を見直す根拠が見えてきます。夜間帯の記録の残し方は介護の夜勤記録の書き方が参考になります。
原因別に効く転倒防止の対策
「ころぶ」事故の発生場所は住宅等居住場所が最多。対策は環境整備・身体機能・履物と福祉用具・見守りの4方向で組む(出所: 東京消防庁・厚生労働省に基づき編集部作成)
原因別の対策は、環境整備・身体機能・履物と福祉用具・見守りの4方向で組み立てます。どれか1つで完結する対策はなく、環境に強い施設でも内的要因への手当てがなければ発生は残ります。気づいたことが職員間に共有されるまでの速さも、この4方向を支える土台です。
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生活動線から見直す環境整備
東京消防庁のデータでは、高齢者の「ころぶ」事故の発生場所は「住宅等居住場所」が最も多く、令和6年中は42,180人でした(東京消防庁、2026年8月時点)。比較軸で見ると、特別な場所ではなく生活の場そのものが最大のリスク源です。訓練プログラムを増やす前に、利用者が1日に何度も通る動線を点検するところから始めると、少ない手間で着手できます。
点検は場所ごとに分けると抜けが減ります。
| 場所 | 確認したい点 |
|---|---|
| 居室 | ベッドの高さ、周辺の物の配置、夜間の足元の明るさ |
| トイレ・浴室 | 手すりの位置と高さ、床の滑りやすさ |
| 廊下・共用部 | 段差と敷居、照明の明るさ、配線の位置 |
| 食堂 | 椅子の安定性、テーブルとの間隔、床の水濡れ |
在宅の利用者では、段差の解消や手すりの設置といった住宅改修が介護給付の対象になっています(厚生労働省、2026年8月時点)。
身体機能へのアプローチ
内的要因への対策は、筋力とバランス機能を保つ取り組みです。東京消防庁も転倒防止のポイントに、体力を増強してつま先を上げ、すり足を改善することを挙げています。
施設では、レクリエーションに立ち座りや足踏みを組み込む、機能訓練の時間に下肢と体幹の運動を入れる、といった形が現実的です。負荷の設定は個人差が大きく、疾患や関節の状態によっては逆効果になる動きもあるため、具体的なプログラムは理学療法士・作業療法士や配置医など専門職の判断を経て決めてください。ふらつきが薬の変更時期と重なるときも、記録を添えて医師・薬剤師へ相談する流れを作っておくと安心です。
履物と福祉用具の見直し
合わない履物は、環境を整えても残る外的要因です。かかとが固定されないタイプや、底が厚すぎて足裏の感覚が伝わりにくいものは、つまずきや踏み外しにつながります。サイズと左右の摩耗差を定期的に確認します。
福祉用具は、令和6年4月1日から、固定用スロープ・歩行器(歩行車を除く)・単点杖(松葉づえを除く)・多点杖が貸与と販売の選択制の対象になりました(厚生労働省、2026年8月時点)。杖や歩行器は身長や使い方に合っていなければかえって不安定になるため、福祉用具専門相談員やケアマネジャーと選定します。
見守りと人員配置の設計
見守りの強化は、人を増やす以外の方法でも設計できます。令和6年度介護報酬改定では、見守り機器等のテクノロジーを導入して業務改善を継続することを評価する生産性向上推進体制加算が新設され、単位数は(I)が100単位/月、(II)が10単位/月とされました(厚生労働省、2026年8月時点)。
ただし機器を入れれば済むわけではありません。同じ改定の人員配置基準の特例的な柔軟化では、機器の不具合の定期チェック、職員への必要な教育、訪室が必要な利用者への個別の訪室など5つの安全対策が併せて求められています。データ上は、見守り機器は導入それ自体ではなく、導入後の運用設計とセットで評価される仕組みです。だから機器を検討するときは、通知を受けた職員が誰にどう伝えるかまで決めてから導入するのが合理的です。
センサーで気づいた変化も、申し送りの場でしか共有されなければ次の勤務帯まで届きません。職員間の情報共有の整え方は介護施設の情報共有を効率化する方法、導入費用に使える制度は介護ソフトの補助金まとめで扱っています。自施設のヒヤリハットがどの方向に偏っているかを見れば、限られた人手をどこに配分すべきかの優先順位が決まります。
転倒防止を身体拘束にしないための線引き
転倒防止を目的にベッド柵で四方を囲む、車いすをベルトで固定するといった対応は、身体的拘束等に当たりえます。運営基準では、生命または身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないと定められています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。
緊急やむを得ない場合に該当して実施するときは、その態様および時間、そのときの入所者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録する義務があります。あわせて、適正化のための委員会を3月に1回以上開催して結果を職員に周知すること、指針を整備すること、研修を実施することが求められます。対象は施設系・特定施設入居者生活介護・認知症対応型共同生活介護に加え、令和7(2025)年度から短期入所系と多機能系にも広がり、研修は年に2回以上とされています(静岡市、2026年8月時点)。
比較軸で見ると、物理的に動きを止める方向の対策は制度上の選択肢から外れます。残るのは、変化に気づく速度を上げる方向の対策です。見守り強化を「拘束を強めること」ではなく「情報が伝わる時間を短くすること」として設計し直せば、制度と現場の両方に無理がありません。個別のケースの判断は、指定権者や施設の委員会で行ってください。
転倒が起きたときの初期対応と市町村への報告
初期対応は安全確保→受診→家族・市町村への連絡の順で進め、第1報は遅くとも5日以内が目安(出所: 厚生労働省 介護保険最新情報Vol.943に基づき編集部作成)
本記事は転倒の予防と体制づくりを主題とするため、ここでは発生直後に現場が迷わないための最低限の流れと、報告対象の線引きだけを扱います。報告書そのものの書き方は介護のヒヤリハット事例集と報告書の書き方に譲ります。
死亡に至った事故と、医師の診断を受けて投薬・処置等の治療が必要となった事故は、原則としてすべて市町村へ報告します。厚生労働省が令和3年3月19日に示した「介護保険施設等における事故の報告様式等について」で定められた範囲です(厚生労働省、2026年8月時点)。それ以外の事故の扱いは各自治体の取扱いによります。
| 事故の区分 | 市町村への報告 |
|---|---|
| 死亡に至った事故 | 原則としてすべて報告 |
| 医師の診断を受け投薬・処置等の治療が必要となった事故 | 原則としてすべて報告 |
| 上記以外の事故 | 各自治体の取扱いによる |
発見してから連絡までの流れ
まず利用者の安全を確保し、意識・出血・痛みの有無を確認したうえで、必要に応じて医師の診察につなげます。そのうえで家族と市町村へ連絡します。運営基準でも、事故が発生した場合は速やかに市町村や家族等へ連絡して必要な措置を講じること、事故の状況と採った処置を記録することが求められています。
連絡の期限と対象サービス
第1報は事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に提出するとされています。その後は状況の変化に応じて追加報告を行い、原因分析や再発防止策は作成しだい報告します。この取扱いは介護保険施設のほか、認知症対応型共同生活介護、特定施設入居者生活介護、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などでの活用も想定されています。
迷いやすいのは、自治体の取扱いに委ねられた範囲です。指定権者の基準を確認し、どこからを報告対象とするかを指針に書き込んでおくと現場で判断できます。場面別の記入例は介護のヒヤリハット事例集と報告書の書き方にまとめています。
施設で転倒防止を仕組み化する4つのステップ
施設の転倒防止は、指針の整備・報告と改善の体制・委員会と研修・担当者の配置という4つの措置で仕組みにします。運営基準の第三十五条が、事故の発生またはその再発を防止するためこの4つを講じなければならないと定めています(e-Gov法令検索、2026年8月時点)。
4つの措置をそのまま手順にする
- 事故発生の防止のための指針を整備する。事故発生時の対応と報告の方法を書き込みます。転倒については、報告対象の線引きと第1報までの期限をここに落とし込むと、判断が人によってぶれません。
- 報告と分析・周知の体制をつくる。事故だけでなく、それに至る危険性がある事態も報告され、分析を通じた改善策が職員に周知される体制が求められます。ヒヤリハットが上がってこない状態は、この体制が働いていないサインです。
- 委員会と研修を定期的に回す。委員会はテレビ電話装置等を活用して開催できます。研修では原因の切り分け方と対応手順を扱い、手順を動画マニュアルの形にしておくと、誰が教えても同じ内容で標準化でき、夜勤帯の職員にも同じ基準が届きます。
- 担当者を置く。1から3を実際に回す責任者を決めます。ここが空いていると、指針はあるのに運用されない状態になりやすい部分です。
生産性向上の委員会と重ねて運用する
令和6年度介護報酬改定では、利用者の安全とサービスの質の確保、職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の設置も義務づけられました(3年間の経過措置あり)(厚生労働省、2026年8月時点)。転倒防止の議題は、この委員会と重ねて扱えます。
安全管理の全体像は介護のリスクマネジメントとは、記録面で指摘されやすい点は運営指導・実地指導対策完全ガイドで整理しています。個別の工夫を増やすより、この4つが揃っているかを先に洗い出すほうが、体制としての抜けを見つけやすくなります。
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転倒防止についてよくある質問
Q. 転倒防止のための滑り止めや手すりは、どこに設置するとよいですか?
東京消防庁は、段差のある場所や階段、玄関への手すりと滑り止めの設置を挙げ、滑り止めマットを敷くことも事故防止対策として示しています。施設では、これに加えてトイレの便座周りと浴室の出入り口が優先度の高い箇所です。
Q. 転倒事故の記録は、どのくらいの期間保存する必要がありますか?
指定介護老人福祉施設の運営基準では、事故の状況と採った処置についての記録を、完結の日から2年間保存すると定められています(指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準 第三十七条、2026年8月時点)。ただし自治体の条例でより長い期間が定められている場合があるため、指定権者の定めを確認してください。
Q. 転倒防止に関する研修は、どのくらいの頻度で実施する必要がありますか?
事故発生の防止のための研修は、運営基準上「定期的に行うこと」とされています。これとは別に、身体的拘束等の適正化のための研修は年に2回以上とされています(静岡市、2026年8月時点)。両者は目的が異なるため、別々に計画します。
転倒防止の記録と情報共有を仕組みにするならCareBase(ケアベース)
転倒防止を続けられる形にするには、3つの軸で自施設の状態を見ると手を入れる場所が絞れます。小さな変化が記録に残るか、その記録が職員間に伝わるまでに何時間かかるか、防ぎ方の手順を誰が教えても同じ基準で伝えられるか、の3つです。
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ただし記録システムも見守り機器と同じで、導入しただけで転倒が減るわけではありません。誰がいつ記録を確認し、気づいたことを次の勤務帯へどう渡すかまで決めて、初めて仕組みとして働きます。
まとめ
介護の転倒防止で押さえたい要点は3つです。1つ目は、原因を内的要因と外的要因に切り分けたうえで、環境整備・身体機能・履物と用具・見守りの4方向で対策を組むこと。2つ目は、動きを物理的に止める方向ではなく、変化に気づく速度を上げる方向で見守りを設計すること。3つ目は、指針・報告体制・委員会と研修・担当者という4つの措置が揃っているかを体制の基準にすることです。まずは直近のヒヤリハットを「時間帯×場面」で並べ直し、自施設がどの方向に偏っているかを確かめるところから始めてください。
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