2026.9.15
介護ハラスメントの線引きと事例|2026年10月義務化のカスハラ対策4項目
介護ハラスメントとは、利用者や家族等による身体的暴力・精神的暴力・セクシュアルハラスメントの3つを指します。2026年10月1日からは、利用者や家族等からの迷惑行為(カスタマーハラスメント、以下カスハラ)を防ぐ措置が事業主の義務になります。厚生労働省の事例集に載っているのは、職員が管理者に相談するまで1か月かかった実例です。整理するのは、ハラスメントの線引きと義務化までに準備する4項目です。
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介護ハラスメントとは?利用者・家族等からの暴力・暴言・セクハラ
3区分ごとに行為の例と記録項目を対応させ、記録様式の欄として整理(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版)p.4 に基づき編集部作成)
介護ハラスメントは、利用者や家族等からの身体的暴力・精神的暴力・セクシュアルハラスメントの3つに分けて記録します。厚生労働省はこの3つをあわせて介護現場におけるハラスメントと総称しています。家族等の「等」は、家族に準じる同居の知人または近居の親族を指します(厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版) p.4)。
この3区分は、記録様式の分類欄としてそのまま使えます。同じ「怒鳴られた」でも、身体的な接触をともなうかどうかで次にとる手当ては同じではありません。区分を決めずに書き残すと、後から施設全体の傾向を追えなくなるため、様式に3つの欄を先に作っておくと集計まで一続きになります。
身体的暴力
身体的暴力は、身体的な力を使って危害を及ぼす行為です。厚生労働省の対策マニュアルは、コップを投げつける、蹴られる、唾を吐く、といった行為を例として挙げています。
記録に残すのは、いつ・どの場面で・どのような行為があったかという事実だけです。けがの有無と受診の要否も同じ欄にそろえておくと、後の事実確認で照合しやすくなります。介助の途中で起きた場合は、そのときの職員配置と利用者の体位も残しておくと、再発防止の検討材料になります。
精神的暴力
精神的暴力は、個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為です。前掲の対策マニュアルは、大声を発する、怒鳴る、特定の職員にいやがらせをする、「この程度できて当然」と理不尽なサービスを要求する、といった行為を例に挙げています。
身体的暴力と違い、けがという結果が残りません。記録が受け手の主観に見えることを気にして、報告が後回しになりやすい行為です。発言の内容をそのまま書き取り、同席していた職員の名前と時刻を添えると、後から第三者が経緯をたどれる記録になります。
セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントは、意に添わない性的誘いかけや好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為です。前掲の対策マニュアルは、必要もなく手や腕を触る、抱きしめる、入浴介助中にあからさまに性的な話をする、といった行為を例に挙げています。
利用者や家族等から受けるセクシュアルハラスメントは、後述するとおり令和3年度介護報酬改定の段階ですでに対策が義務づけられました。入浴や排泄など密室になりやすい介助では、同性介助を基本とするか、複数名で入るかをシフトの段階で決めておくと、個々の職員の判断に委ねずに済みます。
職員間のハラスメントとは分けて考える
ここまでの3つは、いずれも利用者や家族等から職員が受ける行為です。職員どうしのパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントは、パワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)や改正セクハラ指針(令和2年厚生労働省告示第6号)が定める職場のハラスメントとして、別の枠組みで対応します。
なお、職員から利用者への行為は、ハラスメントではなく高齢者虐待の問題です。その研修の進め方と記録の残し方については、介護の虐待防止研修とは|義務化の内容・進め方と記録管理を解説で詳しく解説しています。相談を受けた管理者が最初に切り分けるのは、誰から誰への行為かという1点です。
どこからがハラスメント?認知症の症状・滞納・苦情との線引き
ハラスメントに当たらない3つを上から順に切り分け、扱いと最初の一歩まで示した判断フロー(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版)p.4-5・p.64、カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)p.1 に基づき編集部作成)
認知症にともなって現れる行動・心理症状(BPSD)として現れた言動は、ハラスメントではなく医療的なケアで対応する対象です。利用料金の滞納や苦情の申立ても、ハラスメントとは別の問題として扱います。線引きは行為の種類ではなく、症状として現れた言動かどうかで分かれます(前掲の対策マニュアル p.4-5)。
同じ「怒鳴る」という行為でも、認知症の診断がある利用者が入浴を拒む場面と、家族が契約の範囲外の家事を繰り返し求める場面では、動く人も根拠も変わります。そこで、扱い・判断の手がかり・最初の一歩の3点を軸に、現場へ持ち込まれる言動を並べて整理しました。
| 相手の言動 | 扱い | 判断の手がかり | 最初の一歩 |
|---|---|---|---|
| 身体的暴力 | ハラスメント | 症状によらない言動か(診断のない利用者や家族等の言動を含む) | 事実を記録し、管理者へ報告する |
| 精神的暴力 | ハラスメント | 症状によらない言動か(家族等からの要求も含む) | 発言内容と同席者を記録し、管理者へ報告する |
| セクシュアルハラスメント | ハラスメント | 症状によらない言動か(性的な言動が繰り返されるか) | 同性介助や複数名対応へシフトを組み替える |
| 認知症等の症状として現れた言動(BPSD等) | 別の対応 | 認知症等の病気または障害の症状として現れた言動か。主治医(かかりつけ医)やケアマネジャーの意見も確認する | ケアの見直しを検討し、職員の安全確保は別に手当てする |
| 利用料金の滞納 | 別の対応 | 滞納そのものは債務不履行の問題。不払いの際の言動は別途ハラスメントに当たり得る | 契約に沿って支払いの手続きを案内する |
| 苦情の申立て | 別の対応 | 社会通念上許容される範囲を超えているか。範囲内であれば正当な申入れ | 申立ての内容を記録し、事実関係を確認する |
ハラスメントとして扱うものと別の対応をとるものを、判断の手がかりと最初の一歩まで並べて整理(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版)p.4-5、およびカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)p.1 に基づき編集部作成)
認知症の行動・心理症状(BPSD)は医療的なケアで対応する
BPSDは、認知症にともなって現れる行動症状(暴力・暴言・徘徊・拒絶・不潔行為等)と心理症状(抑うつ・不安・幻覚・妄想・睡眠障害等)をまとめた呼び方です。前掲の対策マニュアルは、認知症の「もの盗られ妄想」はハラスメントではなく、認知症の症状としてケアが必要だと示しています。
ただし、症状に起因する暴言や暴力であっても、職員の安全に配慮する必要があることは変わりません。マニュアルも、ハラスメント対策とは別に対応を検討するよう求めています。症状かどうかの判断は施設・事業所だけで決めず、利用者の主治医やケアマネジャー等の意見も確認しながら決めるものです。
BPSDに当たると整理できた場合でも、その場にいた職員を一人にしない体制と、けがを防ぐ介助方法の見直しはそのまま残ります。ハラスメントではないという結論は、職員の安全確保を打ち切る理由になりません。
利用料金の滞納・苦情の申立ては別の問題として扱う
利用料金の滞納は、債務不履行の問題として契約に沿って対応します。不払いの際の言動がハラスメントに該当することはありますが、滞納そのものはハラスメントとして扱いません。
苦情も同じです。カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであると明記しています(同 p.1)。クレームを受けた場面での具体的な受け答えは、介護の接遇事例集|場面別のNG例とクレーム発生時の対応が参考になります。
判断に迷ったときは一人で決めない
厚生労働省が実施した実態調査では、管理者等が挙げた取り組み上の課題として「ハラスメントかどうかの判断が難しい」が最も多く挙がりました(前掲の対策マニュアル p.64。平成30年度調査で、認知症等の病気または障害のある方による行為も含めて集計)。
判断の難しさは、担当者個人の経験不足だけで説明できるものではありません。切り分けの基準が施設内で共有されていないと、同じ言動でも受け取る職員によって扱いが変わります。前掲のとおり、ハラスメントとは別に扱うのは、認知症等の症状として現れた言動、利用料金の滞納、社会通念上許容される範囲内の苦情の3つです。この3つは、そのまま報告フローの分岐に使えます。判断を個人に委ねず、この3つを分岐として先に決めておきます。
厚生労働省の事例集で見る介護ハラスメントの事例
3事例で職員や事業所が一人で抱えた期間を並べ、報告までの長さを比較(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント事例集」p.6-7・p.16-17・p.30-31 に基づき編集部作成)
厚生労働省の事例集には、発生の経緯から報告・対応までをたどれる14の事例が公開されています。サービス種別は訪問系・入所系・通所系・多機能系・居宅介護支援の5区分、ハラスメント区分は利用者と家族それぞれの精神的暴力・セクシュアルハラスメントの4区分で整理されています(厚生労働省「介護現場におけるハラスメント事例集」 p.3-4)。
利用者からの暴言・嫌がらせで、報告まで1か月かかった事例(多機能系)
利用者が特定の職員に「足が太い」などと発言し、スマートフォンに保存した裸の人形の写真を「似ているだろう」と何度も見せていました。周囲に人がいないときに身体に関わる暴言を受けることが多く、職員が何度か注意しても収まりません。当該職員が管理者へ相談したのは、発生から1か月ほど経った頃です(前掲の事例集 p.6-7)。
相談を受けた事業所は、月1回の職員会議で対応を協議し、当該職員を入浴介助のシフトから外して同性介助を基本としました。管理者から利用者へハラスメントに当たることと、同様の言動が続けば利用の見合わせが必要になることを伝え、近隣に住む家族にも説明しています。利用者と家族から謝罪があり、言動は収まりました。
事業所は振り返りとして、職員間で話し合っている段階で対応していれば、より早く解決したのではないかと記しています。同事例集は、最初に発生した段階で適切に対応しないと少しずつエスカレートしていくと示しています。
事故後の対応が家族の責任追及に発展した事例(訪問系)
移乗介助中に利用者の足から骨折を疑う音がし、後に大腿骨の骨折が確認されました。サービス提供終了時に30分から1時間にわたって家族から管理者への責任追及が続き、事故発生から半月の間に10回近くに及んでいます(前掲の事例集 p.16-17)。
事態を悪化させたのは、管理者が早期解決のために独断で金品を手渡し、経過表を自己判断で開示したことでした。支部から本部への報告がなく、半月ほど支部が介入しない状態が続きます。事故発生から1か月ほどで家族への対応窓口を本部側へ変更し、複数名体制で損害賠償の説明を行い、契約保険会社と協議のうえ弁護士へ委任しました。以降は問い合わせを弁護士に委任している旨で回答し、現場職員の負担が軽くなっています。
事業所は学びのポイントとして、サービスの継続と事故対応の窓口を速やかに分離すること、管理者が1人で頑張らなくてよいと日頃から組織内で徹底することを挙げています。
制度の理解不足が家族の暴言に発展した事例(居宅介護支援)
利用者と子どもが介護保険制度の限度額やサービス内容、単位を理解しておらず、担当のケアマネジャーの提案に納得しませんでした。単位・計算方法・金額を説明し資料も送付しましたが、子どもは「ぼったくり」「こんなサービスで金を取るのか」といった乱暴な言葉を赤色の太字で示す脅迫めいたメールを送るようになり、1か月以上続いて担当者が疲弊しています(前掲の事例集 p.30-31)。
事業所は法的な問題の有無も含めて検討したうえで、子どもに対して次の3点を端的に伝えました。送られてきたメールに担当者が恐怖心を持っていること、このままではサービス提供ができないこと、責任をもって他の事業所を探すことです。すると即座に謝罪があり、その後は職員がサービスの金額を決めているのではないことや多職種でサービスを提供していることを説明して、関係が改善しています。
学びのポイントは、重要事項説明書の説明段階で介護保険制度と提供サービスの内容を十分に説明し、理解と同意を得たうえでサービスを開始することでした。
サービス種別で多い行為は違う
利用者から受ける行為として最も多いものは、サービス種別によって分かれます。訪問介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・通所介護・居宅介護支援等では精神的暴力が最も多く、特定施設入居者生活介護・介護老人福祉施設・認知症対応型通所介護・小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護では身体的暴力が最も多くなります(前掲の対策マニュアル p.63)。
| サービス種別 | 最も多い行為 | 想定される場面 | 優先して整える手順 |
|---|---|---|---|
| 訪問介護・訪問看護・訪問リハビリテーション | 精神的暴力 | 職員が一人で利用者宅に入り、家族と直接やり取りする場面 | 一人で対応させない体制と、その場を離れる判断の基準 |
| 通所介護・居宅介護支援等 | 精神的暴力 | 送迎や制度・費用の説明で、要望と提供範囲がずれる場面 | 契約時に説明した内容と、説明した記録の残し方 |
| 特定施設入居者生活介護・介護老人福祉施設 | 身体的暴力 | 移乗・入浴・排泄など身体に触れる介助の場面 | けがの記録と受診の判断、複数名での介助 |
| 認知症対応型通所介護・小規模多機能型居宅介護・看護小規模多機能型居宅介護 | 身体的暴力 | 症状の変化が大きい時間帯に介助が重なる場面 | 主治医・医療職との連携経路と、症状かどうかの確認手順 |
サービス種別ごとに多い行為と、そこから先に整えたい手順を対応させて整理(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版)p.63〔平成30年度調査。認知症等の病気または障害のある方による行為も含めて集計〕に基づき編集部作成)
3つの事例に共通しているのは、行為の激しさではなく、現場が一人で抱えた期間の長さです。1か月、半月、1か月以上と、どの事例も報告までに時間がかかりました。報告の起点は被害の大きさではなく、違和感を覚えた時点に置きます。
2026年10月から義務になるカスタマーハラスメント対策
変わらず義務の2項目と、2026年10月1日に推奨から義務へ移る措置を対比(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版)p.2、カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に基づき編集部作成)
2026年10月1日から、カスハラの防止措置は介護施設を含む事業主の義務になります。2025年6月11日に労働施策総合推進法(職場のハラスメント対策を事業主に義務づける法律)などの改正法が公布され、2026年2月26日にカスタマーハラスメント防止指針が公布されました(厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。
利用者からのセクハラ対策は既に義務、カスハラ対策は「推奨」
介護分野では、令和3年度介護報酬改定の段階でハラスメント対策の一部がすでに義務になっています。この改定では、全ての介護サービス事業者に必要な措置を講じることが運営基準(介護サービスの人員・設備・運営について定めた基準)で義務づけられました。対象となるのは、職場のパワーハラスメントとセクシュアルハラスメント、および利用者やその家族等から受けるセクシュアルハラスメントです。一方、カスタマーハラスメントについては、防止のための方針の明確化等の措置を講じることが推奨にとどまっています(厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」)。
| 対象となる行為 | 現行(令和3年度介護報酬改定) | 2026年10月1日以降 |
|---|---|---|
| 職員間のパワーハラスメント・セクシュアルハラスメント | 必要な措置が義務 | 変わらず義務 |
| 利用者や家族等から受けるセクシュアルハラスメント | 必要な措置が義務 | 変わらず義務 |
| 利用者や家族等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント) | 方針の明確化等の措置を推奨 | 防止措置が事業主の義務 |
同じ対象行為ごとに介護報酬改定の運営基準と労働施策総合推進法の扱いを並べて整理(出所: 厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(令和3年度改訂版)p.2、厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」、カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)に基づき編集部作成)
何が義務になるのか
改正法により、事業主はカスタマーハラスメントを防ぐために雇用管理上必要な措置を講じることになります。その具体的な中身を定めているのが防止指針で、後述する4つの措置が示されています。
あわせて押さえたいのが、対象となる場所です。指針は「職場」に顧客の自宅等、労働者が業務を遂行する場所を含めています。訪問先の利用者宅も職場に当たるため、訪問介護や訪問看護の場面でも同じ義務がかかります。事業所の建物の中だけを想定して方針を作ると、訪問中の対応が抜け落ちかねません。
介護施設の利用者と家族は「顧客等」に含まれる
防止指針は、対象となる「顧客等」に、病院・学校・福祉施設・公共施設等の施設を利用する者と、施設・サービスの利用者及びその家族を明記しています。介護施設の利用者とその家族は、この定義にそのまま当てはまる対象です。
該当するかどうかは3つの要素で判断します。1つ目は顧客等の言動であること、2つ目は労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものであることです。3つ目は労働者の就業環境が害されるものであることです。手段や態様としては、身体的な攻撃、脅迫や侮辱などの精神的な攻撃、威圧的な言動、継続的・執拗な言動、不退去や居座りといった拘束的な言動が典型例に挙がっています。強い身体的または精神的苦痛を与える態様であれば、1回の言動でも就業環境を害する場合があり得るとも示されています。
現行制度をすでに満たしている施設にとって、2026年10月の変更点は対策を一から作り直すことではありません。変わるのは、これまで推奨だった利用者・家族等からの迷惑行為への措置が、パワハラ・セクハラと同じ法律上の義務の枠に入る点です。既存のハラスメント対策規程に、利用者や家族等からの行為を対象として書き足せるかを最初に確認します。
義務化までに準備する4項目
義務化までに整えるのは、方針の周知、相談体制、事後対応の手順、悪質な行為への対処方針の4つです。いずれもカスタマーハラスメント防止指針が事業主に求める措置で、介護施設も同じ内容を講じます(同 p.5-9)。
| No | 整えるもの | 指針が求めること | 自施設で決めること |
|---|---|---|---|
| 1 | 方針の明確化と周知・啓発 | 毅然とした態度で対応し労働者を保護する旨の方針を明確にし、管理監督者を含む労働者へ周知・啓発する | 方針の文書、周知の方法と頻度、利用者・家族への伝え方 |
| 2 | 相談体制の整備 | 相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知し、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする | 窓口の担当者、受付の方法、既存のハラスメント窓口と一体化するか |
| 3 | 事後の迅速かつ適切な対応 | 事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮の措置と再発防止措置を講じる | 記録の様式、事実確認の担当、再発防止を検討する会議体 |
| 4 | 抑止のための措置 | 特に悪質と考えられるものへの対処方針をあらかじめ定め、周知し、対処を行える体制を整備する | 警察への通報や警告文の発出をどの段階で行うか、判断する責任者 |
指針が定める4つの措置に、自施設で決める項目を対応させた早見表(出所: カスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)p.5-9 に基づき編集部作成)
1. 方針を決めて職員に周知する
最初に決めるのは、カスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護するという事業主の方針です。指針は、この方針を明確にしたうえで、管理監督者を含む労働者へ周知・啓発することを求めています。あわせて労働者へ周知するのが、カスタマーハラスメントの内容と、あらかじめ定めた対処の内容です。
顧客等への周知・啓発も、被害の防止に効果的だと示されています。介護の場面では、重要事項説明書(サービスの内容・料金・苦情の窓口などを契約前に書面で説明する書類)や契約時の説明がその役割を担います。厚生労働省の対策マニュアルに基本方針の作り方の一例が収録されているため、方針の文面をゼロから作る必要はありません。
2. 相談窓口を決めて担当者が対応できるようにする
相談窓口はあらかじめ定めて労働者へ周知します。指針は、他のハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも認めています。職場のパワハラ・セクハラの窓口をすでに置いている施設なら、その窓口に利用者・家族等からの行為を加えるところが着手点です。
担当者には、相談の内容や状況に応じて適切に対応できる状態が求められます。ここで見落としやすいのが対象範囲です。指針は、カスタマーハラスメントに該当するか微妙な場合や、発生のおそれがある場合についても、広く相談に対応するよう求めています。線引きが確定していない段階の相談を受け止められるかどうかが、窓口が機能するかどうかの分かれ目です。
3. 発生後の事実確認から再発防止までの手順を決める
発生後は、事実関係を迅速かつ正確に確認します。確認できた場合は速やかに被害者への配慮の措置を行い、方針の再周知と再発防止措置を講じます。指針が求めているのは、事実が確認できなかった場合も同様に再発防止措置を講じることです。
そのため、確認の担当者と記録の様式は事前に決めておきます。誰が・いつ・どこで・どのような言動があったか、その場に誰がいたか、直後にどう対応したかまで同じ様式で残しておくと、後の話し合いや外部への相談でそのまま使えます。研修の年間計画と実施記録の残し方は、介護施設の法定研修とは?種類・回数・年間計画と記録の残し方にまとめました。
4. 悪質な行為への対処方針を先に決めておく
4つ目は、特に悪質と考えられる行為への対処方針をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者へ周知し、対処を行える体制を整備することです。指針は対処の内容の例として、管理監督者等へ直ちに報告して指示を仰ぐことや、可能な限り労働者を一人で対応させないことを挙げています。犯罪に該当し得る言動については警察へ通報すること、警告文を発出することなども例示されています。
介護サービスには固有の留意点があります。留意点として指針が挙げているのは、各業法等によりサービス提供の義務等が定められている場合や、サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合があることです。対応を打ち切る判断ではなく、誰が・どの段階で・どこへつなぐかを決める作業だと捉えると設計しやすくなります。
4つのうち着手が早いのは相談窓口の一体化で、同時に決めておきたいのが悪質な行為への対処方針です。窓口は既存の仕組みを広げれば済みますが、対処方針は事前に決めていないと、現場でその場の判断を迫られます。
方針の周知と相談窓口を職員に届く形で整えたい方は
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契約時の説明と情報共有から整える日ごろの予防策
予防の起点になるのは、契約時にサービスの範囲を伝えることと、利用者と家族の情報を職員間で共有することです。厚生労働省の実態調査では、リスクの検討体制や職員配置の工夫といった防止対策に取り組む事業者の割合は概ね半分以下にとどまり、発生後の対応に取り組む割合のほうが高い結果でした(前掲の対策マニュアル p.67-68)。
この調査からは、起きてからの対応は比較的整っている一方で、起きる前の整備が半分以下で止まっている姿が見えます。伸びしろがあるのは予防側です。
契約時にサービスの範囲を伝える
前述の居宅介護支援の事例が示すとおり、制度や提供サービスへの理解が得られていないと、苦情やハラスメントに結びつくことがあります。事例集の学びのポイントは、重要事項説明書の説明段階で介護保険制度と提供サービスの内容を十分に説明し、理解と同意を得たうえでサービスを開始することでした。
あわせて、重要事項説明書等に「職員への指示は事業所が行うものであり、サービス内容に対する要望等は事業者に申し出てほしい」旨を記載することも考え得ると示されています(前掲の事例集 p.31)。要望の宛先を契約の段階で決めておくと、職員個人が要求を受け止める場面そのものを減らせます。
利用者と家族の情報を職員間で共有する
管理者等が挙げた発生要因の上位には、利用者・家族等の性格または生活歴や、サービスの範囲を理解していないことが並びます。同じく上位には、サービスへ過剰な期待をしていること、認知症等の病気または障害によるものであることが挙がっています(前掲の対策マニュアル p.64)。
上位に「範囲を理解していない」「過剰な期待」が並ぶことから、予防の起点は契約時の説明にあります。そのうえで欠かせないのが、注意が必要な利用者・家族の情報を担当者の記憶に置かず、サービス提供前に共有することです。過去に強い要求があった場面、対応がうまくいった声かけ、家族のキーパーソンといった情報を先に渡しておくと、職員配置の工夫にもつなげられます。
相談しやすい職場と研修で「我慢」をなくす
同じ調査では、ハラスメントを受けても相談しなかった職員が2〜4割程度いる一方、発生の有無を把握できていない事業者も1割程度ありました(前掲の対策マニュアル p.66)。職員が必要と感じる取り組みとしては、利用者・家族等と事業者による相互的な確認や、相談しやすい組織体制の整備が挙がっています。事業者内での情報共有、利用者・家族等への啓発活動も挙げられています。
相談しやすさは、窓口を置くだけでは生まれません。何がハラスメントに当たるのかを職員が共通して知っている状態と、相談しても本人が責められないと分かっている状態の2つがそろって、はじめて報告が上がります。職員が働き続けられる環境づくりの進め方は、介護職の離職防止|原因データと定着率を高める対策の進め方もあわせて確認してください。
相談先と外部の支援
相談先は施設内の窓口を起点に、地域包括支援センターや保険者、都道府県労働局、警察へつなぎます。持ち込む先を分けるのは、職員の就業環境の問題として扱うのか、利用者へのケアを続けるための問題として扱うのかという違いです。窓口を1つに決めず、事案の性質で分ける手順を先に作っておきます。
| 相談先 | 扱う内容 | 相談できる人 |
|---|---|---|
| 施設・事業所内の相談窓口 | 該当するか微妙な段階を含む、職員からの相談全般 | 施設・事業所の職員 |
| 地域包括支援センター・保険者(市町村) | 事業所だけでは解決が難しい利用者・家族への対応 | 施設・事業所 |
| 総合労働相談コーナー | いじめ・嫌がらせ、パワハラなどあらゆる分野の労働問題 | 労働者・事業主のどちらも |
| 都道府県・市町村の独自の窓口 | 自治体が設ける介護・障害福祉分野のハラスメント相談 | 自治体ごとに対象が異なる |
| 警察 | 暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動 | 施設・事業所、職員 |
事案の性質ごとにつなぎ先を分けるための相談先一覧(出所: 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」、東京都福祉局、埼玉県の各公表資料、およびカスタマーハラスメント防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)p.6・p.8-9 に基づき編集部作成)
施設内で受け止め、地域包括支援センター・保険者へつなぐ
最初の受け皿は施設・事業所内の相談窓口です。厚生労働省の事例集では、事業所単独での解決が難しい場面で、地域包括支援センターが相談先や同行訪問先として実際に機能しています。
一方、前述の居宅介護支援の事例では、地域包括支援センターへ相談したものの具体的な提案は得られませんでした。最終的には事業者内で法的な問題の有無も含めて検討し、方針を決めています。外部へつないだ後も、判断の主体は施設側です。だからこそ、管理者が一人で抱えない体制、つまり法人本部や複数名で協議できる場を先に用意しておきます。
都道府県労働局・自治体の窓口と、犯罪に当たる行為への対応
職員の就業環境の問題として扱う場合の窓口が、総合労働相談コーナーです。都道府県労働局や労働基準監督署内などに設けられ、いじめ・嫌がらせ、パワハラなどあらゆる分野の労働問題を対象としています。労働者からも事業主からも相談でき、予約不要・無料で専門の相談員が面談または電話で対応する窓口です。外国人労働者等からの多様な言語による相談も受け付けています。
自治体が独自の窓口を設けている例もあります。東京都は、都内の介護施設や障害福祉サービス事業所等に勤務する職員・管理者を対象としたカスタマー・ハラスメント総合相談窓口を2026年4月20日に開設しました。埼玉県も、介護従事者の安全確保としてハラスメント専用相談窓口と対策研修を実施しています。窓口の有無や対象は自治体ごとに異なるため、所在地の自治体の公表情報を確認してください。
暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動については、防止指針が警察への通報を対処の例として挙げています。ただし、契約の解除や法的な対応をどこまで取れるかは個別の事情によって変わります。判断の前に、保険者である市町村、都道府県労働局、弁護士等へ相談してください。
ハラスメント対応の研修と記録を仕組みにするならCareBase(ケアベース)
ハラスメント対応の研修と受講状況の記録は、法定研修16種の標準搭載と受講履歴の自動記録で仕組みにできます。方針や手順をまとめたマニュアルもテンプレートから作成でき、AIで11言語に翻訳できます。対策を講じたことを後から示せるかどうかが、手段を選ぶときの分かれ目です。
対策が実際に機能しているかを見る軸は3つあります。職員が判断基準を学んだ記録が残るか、相談と対応の履歴が施設内で共有されるか、方針と手順が全職員に届いたことを確認できるか、の3点です。防止指針が求める4つの措置は、いずれも講じたことを後から示せる状態まで含みます。
教材そのものは、厚生労働省が無償で公開しています。対策マニュアル、管理者向け・職員向けの研修の手引き、職員向けチェックシート、相談シート、事例集、研修動画までそろっており、費用をかけずに入手できる状態です。残るのは、誰がいつ受けたのかと、対応の履歴がどこにあるのかの2点です。紙で配って年1回の集合研修を行う形では、夜勤や訪問が中心の職員に届いたかどうかを後から確認できません。前述のとおり、防止対策に取り組む事業者の割合は概ね半分以下にとどまっています。
CareBase(ケアベース)は法定研修16種を標準搭載し、その03にハラスメント対応が含まれます。受講履歴と進捗は自動で記録するため、運営指導への対応にそのまま使える状態です。本部のダッシュボードでは全施設の受講進捗・マニュアル閲覧・記録状況を横断して確認でき、遅れは色で表示し、KPIを下回る施設を自動で検出します。方針や手順をまとめたマニュアルはテンプレートから作成でき、チャプター構成・画像・動画を組み合わせたうえでAIが11言語に翻訳するため、日本語以外を母国語とする職員にも母国語で読める形で渡せます。導入までは最短2週間、平均1〜1.5か月で、現状把握から運用設計・初期設定まで3つのステップで伴走します。
複数の施設を運営していて、どの施設の職員がハラスメント対応の研修を受けたのかを本部で把握できていない法人に向いています。日本語以外を母国語とする職員が多く、方針や手順を掲示と口頭だけでは伝えきれていない施設も同じです。1つの施設で紙の運用が回っていて、受講状況も対応の履歴もすぐ取り出せる場合は、厚生労働省のマニュアルと研修の手引きを使うところから始めるほうが早く整います。
日本語以外を母国語とする職員にも方針と手順を届けたい方は
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よくある質問
ハラスメントを理由に介護サービスの提供を断ることはできますか?
各介護サービス施設・事業所は、基準省令により正当な理由なくサービスの提供を拒んではならない立場です。厚生労働省は、利用者や家族等からハラスメントがあった場合のすべてが「正当な理由」に当たるわけではないとしたうえで、事案によってはサービス提供を拒否することも考えられると示しています。あわせて、市町村と各施設・事業所が令和3年度改定版の研修の手引きの記載も参考に、十分留意して対応するよう求めています(厚生労働省「介護現場におけるハラスメント対策」)。断るかどうかは個別の事情によるため、判断の前に保険者である市町村へ相談してください。
介護のハラスメント研修は義務ですか?
ハラスメント対策として必要な措置を講じることは、令和3年度介護報酬改定で全ての介護サービス事業者に義務づけられています。研修そのものは、その措置の一つである周知・啓発の手段として位置づけられます。2026年10月1日からはカスハラの防止措置も義務になり、方針と対処の内容を労働者へ周知する方法の例に挙がっているのが研修や講習の実施です。実施した事実を残せるよう、実施日・対象者・内容が分かる記録もあわせて整えます。
ハラスメント対策の指針やマニュアルのひな形はどこで入手できますか?
厚生労働省が無償で公開しています。「介護現場におけるハラスメント対策」のページには、対策マニュアル、管理者向け研修のための手引き、職員向け研修のための手引きがまとまっています。ほかに職員向けチェックシート、相談シート、事例集、研修動画もあります。マニュアルには基本方針の作り方の一例、マニュアルの作り方の一例、報告・対応のフローの一例、相談シートの案内も収録されています。そのため、自施設の様式のたたき台として使えます。
訪問介護でも同じ対策でよいですか?
同じ義務がかかります。カスタマーハラスメント防止指針が「職場」に顧客の自宅等を含めているため、利用者宅で受けた言動も対象です。ただし優先順位は変わります。訪問系のサービスでは利用者から受ける行為として精神的暴力が最も多いため、一人で対応させない体制と、その場を離れる判断の基準を先に決めておきます。自治体によっては、訪問系の事業所や介護支援専門員の安全確保を対象とした支援を設けている例もあるため、所在地の公表情報を確認してください。
CareBase(ケアベース)ではハラスメント対応の研修と受講記録の管理は可能ですか?
可能です。法定研修16種を標準搭載し、その03にハラスメント対応が含まれます。受講履歴と進捗は自動で記録し、本部のダッシュボードで全施設の受講状況を確認できます。方針や手順のマニュアルはテンプレートから作成でき、AIで11言語に翻訳できる仕組みです。研修と記録の運用をどこまで任せられるかは、サービス資料で確認できます。
まとめ
介護ハラスメントは、利用者や家族等からの身体的暴力・精神的暴力・セクシュアルハラスメントを指し、2026年10月1日からは防止措置が事業主の義務になります。切り分けて対応するのは、認知症の症状として現れた言動や、利用料金の滞納・苦情の申立てです。方針の周知、相談窓口、事後対応の手順、悪質な行為への対処方針の4つのうち、先に動かせるのは相談窓口です。すでにある職員向けの窓口に、利用者や家族等からの行為を加えるところから始め、悪質な行為への対処方針も同時に決めます。線引きと記録の残し方が仕組みになれば、職員は違和感を覚えた時点で報告できます。
CareBase(ケアベース)は初期設定から運用開始まで伴走し、導入までは最短2週間、平均1〜1.5か月です。年度内に研修の仕組みを立ち上げたい法人に向いています。
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